まさかの自由研究-4
「きみたち、何年生?」
「それって、プライバシーとか個人情報とか、知らない人に言っちゃいけないやつじゃないの?」
「こう見えてもわたし、ここで働いている職員なんだけどな」
「知ってる、さっきカウンターのとこで見たもん」
「それじゃあ、知ってる人だね」
「そっか……」
会話の流れに違和感をおぼえたが、顔見知りには違いないと思い込んで、2人に何がしかの信頼関係が生まれた気がした健太郎。
「夏休みの宿題?」
「ええと、ちょっと違うけど、だいたいそんな感じ」
「なんだか懐かしいな。お姉さんも小学生に戻った気分」
「お姉さんはどう見ても大人じゃん」
「そうだよね」
「結婚してるの?」
「気になる?」
「別に……」
健太郎は顔を赤くした。あからさまに、お姉さんに興味があります、と顔に書いてある。
「あのね、お姉さんね、ちょっと困ったことがあるの」
「困ったこと?」
「うん。それできみに手伝って欲しいの」
「だったらみんなも呼んでくる」
「だめだめ」
走り去ろうとする少年を足止めする彼女。
「恥ずかしいお願いだから、ボッチくんだけにやってもらいたいんだ」
健太郎は戸惑った。
きれいな女の人からの恥ずかしいお願いとは、いったいどんなものなのか。
子どもの想像はすぐに尽きるけれど、会ったばかりの相手に興味を抱いてしまうのは、その人の謎を解き明かしたいと思う『虫』が棲んでいるからだろう。
彼女の名札にある『今井遥香』という名前以外は、何から何まで謎だらけなのだから。
それから数分後、健太郎と遥香は図書館の2階にある書庫にいた。
ドアの内側から鍵をかけると、外側からは誰も入れなくなる仕掛けをしてあることは、遥香しか知らない。
「それでぼくは何をしたらいいの?」
不思議そうな顔をして、健太郎が遥香にたずねる。