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漆黒の淫靡
【OL/お姉さん 官能小説】

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漆黒の淫靡-2

私は冷気に覆われて真っ暗になった森を心細げにただ、身震いしながらついて歩いていた。

2時間は歩いたろうか、あるいは数十分の道程だったのか…
ただ思うに私がその背中を追う男はこの暗がりでよく前が見えるものだと思う。
今度こそはぐれないようにと男の数センチも後ろをついて歩く、頭の中に浮かぶのはこの男の眼だった。

眼球の7割方も黒目が大きかったように見えた。

それはまるで闇夜の猫の瞳のよう…
猫の目が縦細になったり、黒目がちになったりするのは光の調節のためだとどこかで聞いた。
私には途方もない闇夜でも、この男にはくっきり見えているのかも知れない。

そう思えば、昼間の残暑とは打って変わっての山の冷気のせいもあって急に背中に震えが疾る。
やはり、この男は山の精だの神様だの…人智を越えた存在かも知れない。
しかしながら、こうしてすぐ後ろを歩けば土の匂いに混じった人の匂いを感じるようだったのだ。
だからきっと、私はついて来てしまったのだと思う。

どう考えても漆黒の闇の中に置き去りにされて、さ迷う事を思えば他に選択肢はなかったはずだ。

森林を抜けると、いつしかそこにひとつの集落が見えた。
男の放つ匂いに似た、畑の土の匂いに家々に灯るあかり。
山間に囲まれて満天に煌めくコバルト色の空の下に火を扱う煙が立ち上るのが見える。

ここまで来れば、もう安心だ。
今夜は泊めてもらって電話を借り、明日迎えに来てもらおう。

大学のパーティはまだ私を捜索しているのだろうか?
私の無事を知らせる手立てはあるだろうか?

今時、この日本列島に携帯の電波がない地域があるなんて、夢にも思っていなかったのだ。

… … … …

親指の爪先が紫色に変色していた。
今まで鬱血していた血液が急に足の先に巡り出したようなじんとした感覚だ。

まだ暑いというのに登山用の分厚いソックスを履き、下ろしたての登山靴に固めた足はかなりの披露とダメージが蓄積していたがそれより私の足は基本的に臭いのだ。
ミュールやサンダルを履く今時なら、それも緩和されるのだが知らない家に上がって足が臭いのは乙女として、これ以上の屈辱はない。

「スンダナカサ、ガタッペガタッペ」

食事が運ばれてきた時には咄嗟的に足を隠した。
さっきの男とは違う別の男が山芋をおろしたものと白飯を施してくれた。
言葉は相変わらず分からないし、土色に焼けた身なりも同じようだが明らかにさっきの男とは違うのが声のトーンでわかる。

空きっ腹に白米の匂いを嗅ぐと、ここはやはり日本だと実感するが東京からそんなに離れてない山間の集落にこんなにひどい方言が存在するもんだと思う。
どう説明してよいものやら、言葉自体はさっぱり聞き取れないのだけどアクセントがまだ日本語のうちなのだ。

そのためか、何とはなしに言葉の意味が伝わるような気がする。

やがて、目の前にひとりの老人が姿を見せた。
私はまだ食事中だったが老人は見守るようにそれが済むのを黙って見届けていた。

「どこから来なさった?」

老人ははっきりした日本語で語りかける。
それはつい、今朝まで親しんだ標準の言葉に近いわけではあるが私にはその時、むしろ忘れ去られたいにしえの言葉のように感じられた。


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