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THANK YOU !! ver. distance love
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-3



『トランペット!音が足りないわ!』(ここから『』は英語を表す)
『す、スイマセン!』

指揮者から、タクトを突きつけられてトランペット奏者が頭を下げる。
中には瑞稀の姿があった。他のメンバーと違って、どこかぼうっとしている。
そんな瑞稀に、指揮者から叱咤が飛ぶ。

『ミズキ!聞いているの?アナタの音が一番不安定なのよ。』
『あ・・はい、スイマセン』
『・・アナタらしくないわ。しっかりして』
『・・・スイマセン』

もう一度、謝る。満足したのか諦めたのか、指揮者はそれ以上何も言わずに他のパートにも指示を出していく。
それを聞き流し、瑞稀は楽譜を見つめる。
どこか、メロディーが頭に入ってこない。記号も、いちいち楽譜を見ないと分からないくらい。
溜息を一つ零すと、瑞稀は頭を軽く振った。

「(・・集中、しないと)」

もう一度演奏するという指揮者の言葉に、楽器を構えなおす。
音の量に気をつけながら自分のパートを吹ききる。それでも、指揮者の満足する演奏ではなかったようで、溜息が吐き出された。
指揮者が集中しなおす為に席を立ち、とりあえず休憩となった。

『ミズキ、どうしたの?』
『え?あ・・いや、なんでも』
『今日、指揮者に注意されるの5回目だけど・・』

傍に居た同じ金管担当の先輩たちが瑞稀に声をかけてくる。
その優しい心遣いに瑞稀は「大丈夫」と返して、微笑みを浮かべて返す。
すると、打楽器担当の先輩たちも集まってくる。

『ミズキ、無理しちゃダメよ?』
『そうそう。ミズキは日本のエースなんだからな!』
『日本は関係ないだろ・・。俺たちの期待の星だろ』
『どっちも同じじゃない』
『いや、別だろ。ミズキは一人だけ日本人で日本から期待されてるっていうのに。』
『結局期待の星でしょ』

すぐ傍で聞こえる会話に、瑞稀は苦笑いを浮かべながら適当に相槌を打つ。
『期待の星』と言われたところで、瑞稀は顔を背けて窓を見た。
窓の外に見えるのは、いつ雨が降ってもおかしくないほどの黒い雨雲。
「傘忘れたなぁ・・」とまるで他人事のように考えている瑞稀に、仲間たちが繰り広げている会話に返す言葉が見つからなかった。

『次のコンサート、ミズキのソロかしら?』
『だろうな!あんなに凄い演奏をしたんだ、出来ないわけがないよ!』
『もうすっかりこの楽団のエースね』
『期待して待ってようぜ』

仲間が、思い思いに瑞稀への期待を高めあっていると指揮者が戻ってきた。
席に戻って準備をする仲間たちを一瞥すると瑞稀は自分の膝上にあるトランペットを見つめる。
銀色に輝くそれは無表情な瑞稀の顔を映し出す。

‐期待

先日の拓斗と電話の時に聞こえてきたTVの番組でも同じ言葉が使われていた。
拓斗が黙ってその番組に魅入っていたから、電話口に居た自分にも良く聞こえた。
凄く大勢の人が自分に、今までにないモノを送ってくれているのが分かる。でも、どこか心が受け付けない。
それでも、ちゃんとそれに応えなくてはならない。ちゃんと送ってくれているモノと同等なモノを返さなくてはならない。


「期待・・か・・」

日本語で小さく呟いた瑞稀の言葉は、降り始めた雨音にかき消された。
結局、この日。瑞稀はミスを2回重ねて叱咤を何度も浴びた。



普段よりも遥かに多い叱咤の量に、瑞稀は溜息を吐いた。
このあと居残って練習していこうと考えている瑞稀の耳に、仲間たちのはしゃいでいる声が入る。
その仲間に近づくと、そちらも瑞稀に気付いたようで、笑顔で手招きをしてくれた。
輪に入った瑞稀はどうかしたのかと聞く。

『実はね!3週間後にコンサートが決まったの!』
『へぇ・・!でも1か月前に近くでコンサートやったばっかで?』
『そうなの!曲目は今までに演奏したことのある曲ばかりだけど。』
『それで、今度はどこ?』

コンサートをやれる喜びに浸りながら、瑞稀はさらに聞く。と、笑って焦らされる。
少し拗ねたように瑞稀が急かすと仲間は、

『日本よ!』

と楽しそうな声で言った。思ってもない答えに瑞稀は目を見開いた。でもすぐに笑顔になった。

『そっか!日本!!』
『えぇ!瑞稀、良かったわね!!』
『うん!』

瑞稀が嬉しがっている理由を知っている仲間が、瑞稀を祝福する。
それに満面の笑みで応えた瑞稀は「ゴメン」と言って輪から外れて窓際に向かった。
ポケットからケータイを取り出すと、すぐさまアドレス帳を開いて見知った人の電話番号を画面に出す。
ただいまの時刻は夜20時。向こうは多分、朝の6時を過ぎた辺り。
あの人のことだからもう起きているだろうと思い、電話をかける。
数回コール音がしたあと、電話が繋がった。相手は勿論。

「もしもし、拓斗?」
『瑞稀?どうしたんだ、こんな時間に。』(ここから『』は電話口を表す)

予想通り、起きていた感じの拓斗の声に瑞稀は安堵した。
一方の拓斗は滅多に瑞稀からはしてこない電話と時間帯に驚く。

「あのね、3週間後に日本でコンサートやるって!会えるよ!」
『本当か!?』



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