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THANK YOU !! ver. distance love
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-2




瑞稀と電話をしているとき、偶然近くから愛する人の名前を聞いた気がして目を凝らした。
すると、丁度リビングに置いてあるTVが朝の番組内で特集を組んでいたようだった。
その特集に大きく取り上げられていたのが、瑞稀だった。

『今誰よりも話題沸騰中なのが、アメリカを拠点とするオーケストラに一人日本人として所属している八神瑞稀さんです!』(ここから『』はTVの会話を表す)

そう声を高らかにして言った女のアナウンサーの隣で、男のアナウンサーが恭しく首をかしげていた。どうやら、番組を見ている視聴者が瑞稀を知らない場合の為の演技のようだ。

『八神、瑞稀さん?』
『はい!今、21歳という若さでオーケストラのトランペッターとして活躍する人です!彼女は高校1年生の時に入団勧誘を受け、高校を中退してアメリカに渡ったんです』
『へえっ!!それは凄い!』

それから、女のアナウンサーは次々と得意げに瑞稀のことを話す。男のアナウンサーはただ大げさに驚いているだけだ。
にしてもよくまぁ、ここまで細かく調べるものだなと、拓斗は関心さえした。

「(・・にしても、こんなに特集組まれる程とは・・)」

今日までに渡る努力の結果だろうが、それでも素直に瑞稀を誇らしく思う。

瑞稀がアメリカに戻ってから、拓斗は本屋で海外の音楽雑誌を漁ってみると小さくてもどれにでも瑞稀が載っていた。お試し期間の4年が過ぎたあとからは練習にも、コンサートにも本腰を入れるようになったようで、ここ最近では何小節かだけではあるがソロを任されることも多くなった。

『実は、つい先日行われたコンサートにもメンバーに入っているんですよ!』
「・・・ん?」

つい先日のコンサート。
そんなアナウンサーの言葉に引っかかって、画面を見る。と、丁度コンサートの映像が流れていた。
日付は、自分と再会したあとすぐのもの。
あの時にコンサートが間近に迫っていたことなど知らなかった拓斗は少なからず驚いた。
丁度、トランペットでソロを吹いている瑞稀にスポットが当たり、それと同時にカメラもアップに取る。
真剣そのもので吹いている瑞稀の顔。初めて見るその表情に、拓斗は目を奪われた。
女のアナウンサーの言葉で、拓斗はハッと自分の世界から帰ってくる。

『このコンサートで、彼女は名を広めたんですよ!今までも勿論活躍していたのですが、このコンサートでのソロは世界の音楽家から絶賛されたんです!』
『世界から!?』
『ええ、今まで以上に楽団にコンサート依頼が来ているようです』
『凄いですねぇ・・』

流石に、今度は演技ではなく本気で驚いているんだろう。男のアナウンサーは顔が強張ってしまっている。

『日本のウィンドオーケストラも大注目している、逸材のトランペッター!これからもどんな凄い活躍をするか凄く楽しみです!』
『楽団に日本人一人ということで、同じ日本人として誇り高いですね』
『これからのコンサートもソロ、もしくはコンマスという期待が高まっています!』
『もっと輝いていくのが楽しみですね!』

締めの言葉を告げて、瑞稀の特集は終わったようだった。
結局電話を放ったらかしにして番組に見入ってしまっていたことに気付き、慌てて電話口に出る。
瑞稀の様子を伺うと、少しの間があって反応があった。
怒ってはいないようだった。

「ゴメン、瑞稀。つい」
『・・ううん。大丈夫。』(ここから『』は電話口を表す)
「・・?」

先程笑いあった時よりも、声のトーンが落ちていることに気付く。

「どうした?」
『え?・・あ、ううん、何でもない』
「そうか?」

慌てて首を振った音が電話口にまで聞こえてきたが、どうしても気になってしまい、もう一度聞く。
それでも、瑞稀は「何でもない」と言った。
多分、電話で待たせてしまったことでテンションが下がってしまったのか。と申し訳なく思って壁時計を見る。
そして、今アメリカが何時か頭の中で計算すると、罪悪感に苛まれた。

「ゴメン、瑞稀、今そっち夜の12時だろ!?」
『・・あ、そういえば、そんな時間かぁ』

慌てた自分とは違って、瑞稀はのんびりした口調。
絶対に、講義を受けている自分とは違って丸1日練習漬けの瑞稀は疲労が溜まっているだろうというのに。

『ありがと、気遣ってくれて。』
「気遣いでは無いけど・・大丈夫か?」
『うん。拓斗の声聞けただけで大丈夫。』
「・・瑞稀・・不意打ち止めてくれよ・・」

突然聞けた瑞稀の言葉に、拓斗は顔を真っ赤にした。
好きとかは言えないくせにこういうことはサラッと言える瑞稀は本当に小悪魔だな。と思っていると、瑞稀の笑い声が聞こえた。

『じゃあ、そろそろ切るね。』
「おぅ。おやすみ・・瑞稀」
『うん、おやすみなさい。拓斗、今日一日頑張ってね』
「あぁ」

その言葉で、電話が無機質な音を立てた。
ゆっくりケータイを閉じてベッドチェストに置いてから、気付いた。

「・・そういえば、瑞稀の話・・聞きそびれたな・・」

まぁ、そんなに無理してないみたいだったし、今度の電話で聞けばいいか。と考え直して、瑞稀の不意打ちの言葉に頬を緩めながら拓斗は朝ご飯を作る為にキッチンに向かった。

あとで、聞いておけば良かったと後悔するとは知らずに。



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