[ 受入れる少女-1
・・・選択の少女・・・
2006年6月11日 日曜日
今回を含め後2回でノルマ消化、美涼は解放される。
この時点で美涼は、S丘高校を卒業し新社会人となっていた。
制服姿から私服姿になっても、美涼の美しさに変わりはなかったが千章にとっては些か趣が損なわれつつあった。
そんな私的感情とは別に、美涼との性交は千章の思惑通りと言う訳にはいかなかった。
しかし思うように行っていないのは、高校を卒業し就職していた美涼にも言えた。
美涼は千章との関係とは全く別の、ふたつの大きなトラブルを抱え窮していた。
ひとつ目は、苦労をかけていた母の突然の入院と手術。
ふたつ目は、自身が休日に起こしてしまった車両事故。
幸いケガ人が出る様な事故には至らず、自損事故と対物事故であった。
問題は通勤に必要な車を失った事と、保険を超えた自己負担分である。
共にストレートに言えば、金銭的に困窮していたのである。
この時運命は大きく千章に傾きつつあった。
11回目のノルマ消化後の車内にて、珍しく千章が口を開く事になる。
「福井さん、次回で終了ですね」
「こんな事をしておきながら、今更詫びるつもりも無いし、許しを請うつもりも無いですが・・・」
「あなたの貴重な時間を奪ってきたのは事実です」
「あなたが私を嫌悪憎悪している事は十分理解しいます」
千章は美涼が困窮している事を知っていた。
美涼から見れば、吐き気がするような強姦魔の助けを受けるとも思えなかったが・・・
美涼のノルマは後1回、こうして言葉を交わす機会も無くなるのである。
試みても互いに実害は無いと判断し、美涼のプライドと心中を察しながらひどく抽象的に伝えてみた。
「あなたに対しての謝罪として、私に支障の無い範囲で何かひとつ聞き入れます」
「本日で最後にしてくれと言うのであればそれも受け入れます」
もちろん強姦魔である千章が、「あしながおじさん」を気取る訳では無く少々の打算も入り混じっていた。
・・・岐路の少女・・・
この時千章は美涼に次ぐ少女、磯崎恵利子をその手中にしつつあったのである。
それ故美涼に今後、これまでの事をより強く口止めする意味合いも多分に含まれていたのだ。
常識的に言えば変に騒ぎ立てても、被害者の美涼に何のメリットも無いのだが最後まで慎重に事を運ぶ事を選んでみた。
美涼は迷い困惑していた。
千章の言う部分の「聞き入れる・・・?」
聡明な美涼もまた、千章の考えを少なからず感じとっていたのかもしれない。
問題は、それを受けてしまってよいものなのか・・・
今の美涼に頼れる他人が居るとすれば、この男の他にいなかったのも事実である。
福井母娘は訳あって、美涼の父親が亡くなる以前から親類縁者との交流は一切無かった。
そして望まぬも肌を合わせてしまい、その後の男の振る舞いに少なからず「思慕の情」をそれと気づく事無く懐いていたのかもしれない。
結果的に美涼は堰を切った様に、現状の困窮と心中を吐露してしまう。
翌日幾つかの注意点を受けた上で、美涼はふたつのトラブルから解放されていく。
母の入院費等については、昨日尋ねられた自身の口座に必要十分な金額が振り込まれていた。
通勤に必要な車は、一時的には指示されたレンタカー店に用意されていた。
注意点は当然美涼以外の人間が、千章から金銭的援助を受けた事を知られない事であった。
そこで千章は一計を案じたのである。
美涼の起こした自損事故そのものを利用し、その事故の加害者が自分である事にしたのである。
つまり母親の入院費は自己の示談金。
美涼に用意される、新しい車も当然「加害者」である千章が用立てる。
そして事故時の千章流行は「飲酒運転状態」であった事になっている。
以上の事により、福井美涼が金銭その他を手にする事になる。
入院している母親も、とりたてて違和感無く事実を受け止める事が出来るであろう。
・・・依存の少女・・・
2006年7月9日 日曜日
「ノルマ」最後の時。
美涼の心境は複雑かつ大きく揺れていた。
あの日自らの困窮を吐露した翌日から、思い煩ったトラブルは魔法の様に解消されていく。
母親の入院費においては、単純な金銭面のみの処理であった為さほど感謝にも似た念は感じられなかった。
ある意味この程度の金額であれば、男が自分に行った事を考えれば不足にさえ感じられたからである。
しかし自らが起こした自損事故処理においては違っていた。
相手方がかなり厄介な部分もあり、千章の手際良いやり取りを身近で目にしその印象は大きく異なっていた。
前者とは大きく違い、ただ単純に金銭面のみの援助では無く実際に献身的に動いてくれているのである。
あるいはこの事をもって、更なる要求をしてくるのかとも考えたが今はもうこの男を信じるしかなかった。
自損事故の処理が終わると代わりの車を探す事になる。
いつまでもレンタカー通勤と言う訳にもいかなかった。
こちらの購入においては、美涼がまだ未成年と言う事や書類面の必要性もあり千章のアドバイスを受けつつ行動を共にした。
不思議な感覚である。
自らを乱暴した男に助けを求め、結果的に経済的な援助を求める結果になっている。
恥ずべき行為なのにも関わらず、何故か今は心地よい安堵に似た依存感を感じていた。
誰かに身を委ね依存する心地よさ、美涼が長い事忘れ心の奥底で望んでいた事である。
父が亡くなってから母一人娘一人の生活、けっして豊かな物では無かった。
経済的にはもちろんではあるが、何より精神的な部分が大きかったのである。