]U 抉開の桜貝-2
・・・制服の男・・・
混入された「液体」は乾いたスポンジが水分を吸収する様に、手渡された飲み物と共に恵利子の体内に浸透していく。
効果のほどは傍らに佇む千章にも手に取る様に分かった。
恵利子の意識が微睡み始める。
倦怠感が全身を包み込み、鉛の様に身体が重く感じられ立ち上がる事すら気怠く感じられてくる。
今すぐこの場で、横たわり十分な睡眠を得たい感覚。
それでも下半身の疼きは止まらず、恵利子の中心からは聖蜜が今も溢れ続けていた。
あとはこの少女をいかに人目に付かず、用意した場所まで移動させるかである。
ここからが千章の綿密且つ狡猾な計画的のはじまりである。
人は見た目で判断され、そして騙される。
そのひとつが「制服」である。
容姿、表情、言動、初対面の人間であれば尚更である。
逆に言えば、清潔な身なり、穏やかな表情、物腰やわらかい口調は他人を安心させる。
このからの千章の行動が、その「見た目」によってはいくら人目が少ない駅構内と言っても見咎められたであろう。
30代男性が肩を貸す様に10代のそれも制服少女を支えながら200メートル程先にある駐車場まで歩くのである。
通常徒歩1分で80メートル計算、つまり通常の歩みなら2分半、3分にも満たない時間である。
しかし今の状況だと倍以上の5分から6分かかる距離感である。
その5分、6分も永遠に長く感じられる距離。
見ようによっては、かなり怪しく感じられる雰囲気がある。
しかし清潔感のある髪型に、プレスの効いたスーツにワイシャツ。
その他の部分においても、全てが手入れが行き届き違和感が無い。
これが千章にとっての「制服」である。
元々中肉中背でこれと言った特徴の無い男である。
どちらかと言えば、実年齢より5歳は若く見える風貌が時としてマイナスにもプラスにも作用する事がある位である。
さらに口を開き人と接すれば、穏やかな物腰と丁寧な言葉使いが安堵を与える。
千章自体身嗜みはもちろん、身に着ける物には細心の注意を払っていた。
マンションのクローゼットには、仕立ての良いオーダーのスーツが同色で7着、ワイシャツや革靴、その他時計等に至るまで同じ物を1週間分セットで揃えていた。
そして決して目立ち特徴的な物は選ばない。
人目に付かず、違和感の無い物を買い揃え身に着ける。
それを少女たちが身に着ける「制服」の様に着こなしていた。
元々裕福な家庭に育ち、就職後も商社勤めで十分過ぎる社交性も持っている。
取り立てて無理をしなくても、自然とそれらしく見えてしまう。
その全てが強姦魔の裏の顔を隠す為に用意された表の顔用の「制服」である。
足元がおぼつか無い恵利子を、肩を貸し支える様に駅構内より歩み始める千章。
それは不思議とそれ程の違和感を感じない風景であった。
気分が悪くなった女子生徒を、まるで身内か学校関係者が誘導している程度にしか見えない。
さらに運も大きく味方していた。
降りた駅は乗降客も少なく、電車が出れば駅前の人通りもほとんど無いS駅。
そして人目に付かず駅構内を抜け出し駐車場までたどり着く。
ここ数日に山を張り、3日前から通過駅3ヶ所付近の駐車場にレンタカーを停め続けていたのだ。
調査同様準備にも怠りは無い。
移動する車中、千章は保護者を装い恵利子が通う高校に欠席の連絡を入れる。
少々危ういが仕方ない。
これからの時間確保を考えれば、この程度の危険は甘んじて受け入れる他無い。
腕時計に目をやると、現在の時刻は午前9時45分。
磯崎恵利子が下校し、帰宅する時間はほぼ一定で午後6時。
移動を始めた車中、千章の脳内では移動時間の計算と目的地までのコース、計画の修正とが思い描かれていく。
この程度の危険を犯さねば、この少女は手に入らない。