君に忍び寄る魔の手-5
「あれ? 芽衣子がいない」
アパートに帰るには、俺達が歩いているこの細い道を突き当たるまで進み、そこを左に曲がらなくてはいけない。
しかし突き当たるまでの道のりと、芽衣子の歩くスピードを考えれば、芽衣子が角に到着したとは考えにくい。
「園田、芽衣子はどこ行った?」
キョトンとした顔で、横に立っている園田の顔を見やれば、奴はこめかみから汗をタラリと垂らして、
「若い娘がこんな暗い道を一人でフラフラ歩くから……」
と、芽衣子が歩いていたはずの道を凝視していた。
園田のただならぬ表情に背中の産毛が逆立った。
嫌な予感がした俺は慌てて駆け出した。
この細い道は突き当たるまでに一カ所十字路がある。
まあ、曲がった所で辛気臭い古びた住宅街が続いているだけだ。
店だって、こんなとこ誰が入るんだっていうような古臭い電器屋や、衛生観念皆無な汚い食堂ぐらいしかない。
時間も時間だし、とっくに店じまいしているが。
でも、芽衣子がいなくなるとすれば、この十字路を曲がったとしか考えられない。
十字路に向けて急いで走り出し、辺りを見回すが、それでも彼女の姿は見えない。
だんだんと早くなっていく心臓に、乾いていく喉、嫌な汗が目尻に入り込んで慌ててそれを拭う。
俺、死んでいるのに生きてるような反応してんだなと、どうでもいいことが頭をよぎりながらも、キョロキョロ十字路を見やる。
そして、十字路の右手を少し進んだ所に、ポツンとさっきまで芽衣子が履いていた突っかけタイプの健康サンダルが片方だけ落ちているのが目に入った。
その刹那、心臓がドクンと強く脈打ったような気がした。