是奈でゲンキッ!V 『プロジェクトZ 挑戦し過ぎた者たち!?』-3
しかし。
「駄目駄目ぇ、家の娘ときたら物の取り扱いが乱暴な上に、品物を見る目が無くてね。いつも安物買いの銭失いをさせられるんだよ」
「あっはぁ…… そうっすかぁ」
「やはりこう言った自転車のようなマシーン選びは、男の子じゃなきゃね」
相変わらず善太郎は、そんな事を言って、嘉幸に自転車を選んでくれるよう、せがむばかりであった。
嘉幸は嘉幸で、マシーン選びは男の子にって言われてもなぁ…… 使うのは女の子なんだろぅ…… と、やはり乗る気がしない。
それでも、余りに善太郎が嘆願してくるものだから、そのうち嘉幸も、適当に決めてさっさと逃げちまった方が利巧かな、なんて思ったりもする。
「ところで……あの〜おじさん。聞きたい事があるんだけど……」
「っん! 何かね?」
嘉幸は、不躾(ぶしつけ)ながら善太郎に質問した。
「そのぅ〜娘さんの事なんだけどぉ…… そんなに乱暴者なんですか」
対象が女の子なだけに、やや遠慮がちでは有ったが、嘉幸は自転車選びの参考になればと、そんな事を尋ねたようである。
聞かれて一瞬、善太郎も言葉を躊躇(ためら)ったが。それでも開き直るようにして。
「そ〜なんだよっ君ぃー! 家の娘と来たら体力だけは男勝りでね、わたしもほとほと困り果ててるんだよ! しかたなかったとは言へ、どうやら育て方を間違えたようだ! ああ〜っ、娘も君のようなアグレッシブな男の子だったらなぁ……と、私もつくづく思うよっ!」
「あっ……アグレッシブっすかぁ」
善太郎は、自身で言いながらに何やら込み上げて来たのだろうか、興奮気味にそんな事を言うと、本当は私は男の子が欲しかったんだー! とばかりに嘉幸の肩を ”バンバン”叩きながら、悔し涙まで流していた。
嘉幸は善太郎に叩かれ、身体をちじ込ませながらも、言い返す言葉も無いと言ったところだろう。
どうやらこの人の娘さんって言うのは、体格も良く、運動神経抜群のスポーツウーマンであり、活発で元気の良い女の子に違いない。加えて負けず嫌いで、何にでも挑戦するような、冒険心の持ち主でも有るだろうと、嘉幸は勝手に解釈した様である。
こうなったら仕方が無い。
嘉幸はそんなスポーツウーマンにふさわしい自転車を選ぶべく、山ほど有る自転車のカタログと、睨めっこを始めたのだった。
「思いっきり振り回すなら、やっぱマウンテンだよなぁ。これだったら、ちょっとやそっとじゃ壊れないだろうし」
「ほうほう……なるほど、なるほど」
真剣に自転車選びをする嘉幸の横顔を見詰めながら、善太郎も感心したように頷く。
「通学で使うってんなら、前籠(かご)と泥除けは外せないし、スタンドも居るだろうなっ」
「おおーっ! さすが学生君だ! 私には思いつかない発想だったよ!」
「それから、部活動で帰りが遅くなる事もあるだろうから、ライトはハブダイナモ(発電機)とLED(発光ダイオード)式の自動点灯ライトが良いだろう」
「なるほど! これは盲点だったな」
「うへへへぇ。さっすが田原の坊ちゃんだぁ。センスが良いでやんすねぇ」
なにやら横から覗き込んでいた自転車店の店主も、思わず嘉幸の自転車選びを絶賛する。
そんな店主と顔を突き合わせて、善太郎も。
「やはりこういった物を選ぶ時は、男の子に限るな。しかも若い子に限る!」
そんな事を、腰に手を当てて、仰け反るようにしながら言ったりして、どうやら上機嫌な様子であった。
「さいでやんすねぇ!」
店主も善太郎の機嫌を更に持ち上げるかのごとく、よいしょっ! どっこいしょっ! と、太鼓持ちに余念がない。
そんな二人のはしゃぎっぷりを横目で見上げながら、嘉幸は(いいのかなぁ……こんな自分好みの選び方で……)と、なんとなく不安な様子でもある。流れる冷や汗を、どうにも隠せないで居た。