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是奈でゲンキッ!
【コメディ その他小説】

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是奈でゲンキッ!V 『プロジェクトZ 挑戦し過ぎた者たち!?』-2

 熱々の湯飲みじゃわんを握り締め、感動と歓喜に沸き立つ心を落ち着かせながら。
「こいつは選ぶのが……大変そうだなぁ」
 と、善太郎が嬉しい溜息を付いていると。
 店に入ってからずっと棚やらロッカーやら、陳列されている自転車の籠の中やらを引っ掻き回していた店主が、何やら両手で抱えるほど大量のカタログやらチラシやらを持って、応接セットのところまで遣って来た。
 そうして、その山のようなカタログを、善太郎の目の前にあるテーブルの上へ ”ドバッ”と、落す様にして置くと、やれやれと言った顔付きで「どっこいしょ!」と、善太郎の向かい側のソファーへと腰を降ろした。

「これなんかどうでやしょう」
 店主は一枚のパンフレットをテーブルの上に広げて見せると、そこに可愛らしく写っていた赤い自転車を指差して、そう言った。
 善太郎は店主の指し示した写真を観るなり。
「駄目駄目ぇ、赤は駄目っ! この間『坂下り』とか何とか言って壊したのも赤だったから、縁起が悪い」
 そう言って顔の前で、激しく手を振り捲くる。
「そうでやんすかぁ……」
 ならば仕方が無いと、店主は別のパンフレットを引っ張り出し。
「そんじゃぁ〜まぁ、これこれ、これなんかお嬢様にはピッタリかとォ……」
 今度は、爽やか且つ、軽快そうな水色の自転車をお勧めするが。
「あいやー! いかんいかんっ!! それこそたった2週間で潰した自転車にそっくりだ! その後、家の前に放ったらかしにして、盗まれたりした、不浄な代物だ!!」
 どうやらこれも気に入らないと、善太郎は断った。
 ならば、これだあれだと、その後も店主と善太郎で激しく議論を交していた様では有るが、なかなかどうして、是奈の為の新しい自転車が決まらず、二人して顔を渋らせて居た。
 
「こんちわー! おやっさ〜ん、マウンテン用のパンク修理セットあるぅ!?」
 するとそこへ、いつものように白いマウンテンバイクに跨り、颯爽と『田原 嘉幸(たはら よしゆき)』がやって来たではないか。
 嘉幸は店に入ってくるなり、大きな声で激論中の二人の会話を遮ると、少し間の悪さに恐縮したらしく、善太郎に向かって軽く会釈をしたりする。
 どうやら嘉幸、ここ『真仁屋(まにや)転車店』の店主とは顔なじみの様でもあり、まさしく常連客と言ったところであろう。嘉幸の声を聞いて店主のおやじも、
「あいやー田原のぼっちゃん、久しぶりでやんすねぇ。パンク修理セットですかい、ちょほいとお待ちなすって」
 そう言うと、嘉幸の言うパンク修理セットを探すべく、小物が並んだ棚を引っ掻き回し始めた様子である。
 ところで善太郎であるが。そんな嘉幸の事をしばらく遠い眼差しで見詰めていたりもしたが、ふと何やら思い付いたらしく、突然、嘉幸に向かって言い放って来た。
「そうだ君ぃ! 君のような若者の意見を是非、聞かせて欲しいのだが……」
 そう言いながら ”ボーッ”と突っ立っている嘉幸の手を取って、握手なんぞをしたりもする。
 是奈の父親『善太郎』は、娘と同じ年頃であれば、自転車を選ぶセンスが似ているのではないかと、嘉幸に自転車選びの手伝いをして欲しい事を告げると、是非にと掴んだ彼の手を上下に振りまわしていた。
 しかしながら、突然話を振られた嘉幸としては、少し困惑した様子でもある。表情を曇らせ、嫌そうな素振りで、返答を濁らせる。
 それもそのはずである。聞けば娘さんに似合う自転車を探しているとの事だが、自分はその子が好きな色や、欲しい車種も解らない。余りいい加減な物を選んでしまって、後で娘さんとやらが恥ずかしい思いでもしたら大変だと、やはりここは自分なんかに聞くよりも、当人である娘さんに選ばせた方が良いのではと、嘉幸は改めて善太郎に問い返しもする。


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