〈屠畜部屋〉-9
『……ねえ、貴女って何なの?……犬?それとも……美津紀って妹と同じく豚かしら?』
(!!!!)
タムルは麻里子の周りをグルグルと回り、今の姿をジロジロと見ていた。
膝上と足首の枷はそのままで、真一文字に股間は開かれたままで、床に両手をついている……それは水面に浮いた蛙の死骸か、電柱に放尿する犬のよう……およそ人間の、しかも羞恥を知った成人女性がとれる姿勢では到底ないのだ……。
『ねえ、私が聞いてるのよ?貴女は何なの?猫?豚?馬?牛?犬?……早く答えなさいよ?』
「くッ…ぐぐ……」
タムルは麻里子の前にしゃがみ込み、またも乱暴に前髪を掴んで顔を上げさせた。
もう体力に余裕の無い麻里子は、両腕で上体を支えるのが精一杯で、身体を丸めて両足の枷を外せる余力など何処にも無かった。
必死な形相で歯を食い縛り、震える両手を突っ張らせているだけだ。
『私を怒らせたいの?……じゃあ瑠璃子って女で“スッキリ”しちゃおうかしら?』
「ッ〜〜!!!」
麻里子も、航海の最中の瑠璃子と同様に、畜人の操り人形とされていく……この極限状態では、誰かを想う事は破滅への道筋が増えるだけだと知ったところで、最早手遅れだ……。
『……犬かしら?盛りのついた牝犬?……いや、違うわね。この下品でイヤラしい顔は腹を空かせた牝豚……ねえ、牝豚さん?……牝豚……どっちなのよ?』
「う…うぐぐ…ッ!!」
勝ち誇った顔の瞳はギラギラと光り、悔しさに歪む口元には嘲笑う人差し指が這い回る。
しつこく繰り返される台詞は、ただ一つの“答え”しか欲していない。
それは全てを失ったはずの麻里子から、更に全てを奪い取る冷酷な処断だった。
「うぎ…ッ……私は……め…牝…豚……」
タムルの口元がニヤリと笑った……しかし、それは暴力への引き金でしかなかった……タムルの両目は吊り上がり、麻里子の頭髪は両手にガッチリと掴まれる手綱と化した。
『ウフフ…聞こえなかったわ?何?貴女は何なの?貴女は何なのぉ?』
「い、痛あッ!!め…牝豚…ッ!!牝豚あぁッ!!!」
タムルは両手で掴んだ髪をグシャグシャに掻き毟り、その激痛と、異常者丸出しのタムルの表情に怯えた麻里子は、人間としての尊厳すらかなぐり捨てて叫び続けた。
性欲処理として使われ続け、身体は精液便器にまで堕ちていた。
そして今は、自らを貶める言葉を言わされ、心までも姦されている。
女性故に味わう生き地獄。
一切の主張は許されず、集団と拘束具に物を言わせる鬼畜達に、慰み物にされ続ける恥辱と汚辱。
死んだ方がマシとすら思える性の拷問を、瑠璃子や春奈には味わわせるわけにはいかない。
こんなくだらない性欲処理の為だけに、妹達の人生が潰えてしまう事だけは、なんとしても防がなければならなかった。