投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

a village
【二次創作 その他小説】

a villageの最初へ a village 109 a village 111 a villageの最後へ

I-6

「調整を急いだ余り、宿の手配を忘れまして」
「それなら……!」

 雛子は、言い掛けて口を噤(つぐ)んだ。
 幾ら此方が頼んだとは言え、独り身の女性の家に男性を泊めるのは非常識である。然りとて、他に良い案も浮かばない。

(どうしようか……)

 正に思案投げ首な雛子に、高坂が助け船を出した。

「だったら、儂の家に来なされ」
「良いんですか!?」
「子供が煩いかも知れんが、それでええなら」
「構いません!宜しくお願いします」

 トントン拍子に話は進み、高坂は吉岡を連れて帰る事となった。

「じゃあ河野さん、明日から調査に入りますから」

 雛子は、吉岡と高坂を見送った後、自宅へと帰った。
 既に日は落ち、西の山際だけ僅かに夕日の名残を見せていた。

(慰めてくれたんだろうけど……)

 吉岡の「駄目な場合も多々有る」が心に引っ掛かる。最初に感じた人物像と、かけ離れた恣意的な言葉に、雛子は戸惑いを隠せない。

(他人から見れば、大した事じゃないんだろうけど……)

 家に入ろうとした時、玄関前で何やら動いた様に見えた。

「な、何?」

 おっかなびっくりで、腰の引けた雛子は動け無い。すると、向こうから声が掛かった。

「遅いですよ、雛子先生」

 林田の声だと判った途端、雛子は力が抜け、次に怒りが涌き上がった。

「他所の家の前で、何をやってるんですか!」
「何って、いりこと胡麻、持ってったままなので」

 言われた通り、手提げ袋の中から、いりこと胡麻が出てきた。

「──自分から逃げちゃったくせに」

 ぶつぶつ不満をぶつけながら林田に手渡そうとするが、彼は受け取ろうとしなかった。

「それより、腹減ったでしょう?素麺食べましょうよ」
「そんな事言って、また呑もうって魂胆でしょう?」

 雛子は、林田の足下の一升瓶を目敏く見つけた。

「──折角ですけど、私、そんな気分じゃないんです。それに時刻も遅いでしょう」

 拒否する雛子に、林田は両手を擦り合わせて哀願する。

「そんな事言わないで!ね、私が風呂を沸かしますから。お願いしますよ」

 余りに節操の無さを目の当たりにして、雛子は呆れながらも許してしまう。

「じゃあ、お風呂と素麺汁をお願いします。私は素麺の方をやりますから」
「有難うございます!雛子先生」

 こうして、二人は手分けして準備に取り掛かった。林田は風呂の水汲みと湯沸しを担当し、雛子は、素麺汁以外のおかずを作った。


a villageの最初へ a village 109 a village 111 a villageの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前