投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

a village
【二次創作 その他小説】

a villageの最初へ a village 108 a village 110 a villageの最後へ

I-5

「調査はどうされますか?もう夕方ですから、明日にでも」

 申し出に吉岡は肯く。

「半日、汽車とバスの移動で身体は参ってるんですが、その前に、光太郎さんからの頼まれ事を済ませないと……」

 そう答えた吉岡は、一杯に膨らんだリュックサックの口紐を解いた。

「これも頼まれたんです」

 雛子に手渡されたのは、子供用の水着だった。

「男子用と女子用を大、中、小の寸法で四枚ずつ。締めてニ十四枚」
「そんなに沢山……」
「こりゃあ、大変な物じゃあ」

 努めて二人から離れていた高坂も、意外な出来事に思わず会話に割って入る。吉岡も笑みを湛えて小さく肯いた。

「これだけの枚数を揃えるのに、光太郎さんはかなり、ご苦労なされたそうです」
「そうだったんですか……」

 雛子は恥ずかしかった。兄は依頼を叶えようと動き回ってくれてたのを、返答が遅いからと疑っていたのだ。

「一枚、四百円だそうですよ」

「よ、四百円も!」

 締めて九千六百円也。ほぼ、雛子の月給と同額だ。

「光太郎さんの伝言は、これを学校の備品として貸し与えてはどうかと言う事です」
「そ、そうですね……」

 確かに、これ程の高額品なら、貸し出しにした方が子供逹も長く利用出来る。

「これで一つ目の役目を終えて、明日から身軽に動き回れる!」

 学校の校長室に水着を運び終えた吉岡は、軽くなったリュックサックでおどけて見せた。

「これだけの為に、リュックサックを担いで来て下さったんか?」

 高坂が訊いた。

「いえ、一番底に、着替えや検査用の機材を入れています」
「検査用の機材って?」
「水質を大まかに分析する機材と、試薬瓶を少々」

 吉岡の説明に、雛子は俄然、興味を持った。

「水質って、地域によって違う物なんですか?」
「ええ。日本の殆どの水は軟水と呼ばれる物ですが、地域によっては硬水が出る場所もあります。温泉と同様に、含まれる成分は区々です」
「へぇー、そうなんですか」
「水質を分析する事で、河野さんが望む物の“栽培”に適しているかを判定します」

 逆に見ると、栽培に適していないと判定されれば、雛子の計画は頓挫し、根本的変更を強いられる事となる。

「宜しくお願い致します!」

 雛子の声に、切実さが漂う。

「まあ、気を楽に。駄目な場合も多々有りますから」

 しかし吉岡の方は、学者が時折見せる冷淡さを表すと、

「ところで、重大な事を忘れていました」

 話を切り変えた。


a villageの最初へ a village 108 a village 110 a villageの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前