前編U-11
「折角のお話しですが、お断りさせて頂きます」
「ど、どうしてですか!?」
李には信じられ無い。防衛省とでも互角に渡り合う程の男が、目の前のアクションを断ったと言う事が。
しかし、恭一には明確な理由が有った。
「先程も申し上げましたが、私も四十に手の届く歳……もう、派手なアクションは無理です」
「貴方に老けたなんて言われたら、私なんかどうなります。
お願いです、断らないで下さい」
哀願とも採れる李の申し出だが、恭一は首を縦に振ら無かった。
「四年前のあの日、私は自分に区切りを付けたのです。以来、探偵だけを生業としています……」
国同士のパワーゲームに翻弄される事に嫌気が差し、外事部を辞めた者にとって、国家レベルの驚異など、どうでも良い話だった。
「どうしても駄目ですか?」
「申し訳ありません。ここまで手厚い扱いを受けながら、希望に添えなくて」
「そうですか……」
李の表情は、再び強い落胆の色を示した。が、それに同情する程、恭一は繊細では無い。
「李さん、今夜は有難うございました」
話は終わった。席を立った恭一は、部屋の出口へと向かい、扉に手を掛けた所で振り返った。
「次は、もっと本音の話をしたいものですね」
「松嶋さん……」
去り際に、意味深な一言を残して恭一は出て行った。
「ふー……」
李は、又ため息を吐いた。
「上手くいきませんわね」
何時の間にか、李の傍らには秘書が立っていた。
「最初はこんな物だ。次の方法を考えよう」
「そうですわね」
策応する二人の眼が、微かに笑っていた。
交通局を訪れた鶴岡は、件の遺棄現場近くを走る、幹線道路を撮影した監視画像から、当該時間帯である、十一日前の午前四時半から六時までの分を借り受けた。
「しかし、割りとあっさり貸してくれたな」
未だ事件として扱って無い場合、捜査権を用いた資料押収は無理である。よって、協力と言う形を採って借り受けるしか方法は無い。鶴岡は直ちに署へと戻り、その足で鑑識課の入る別棟を訪れた。
地下一、ニ階は、遺留品や押収物等の保管所が占め、上の二階を、遺留品や写真等の様々な係別に部屋が区分けされている。鶴岡は先ず、二階に有る課長の橋本史雄の部屋を訪ねた。
「おお、ちょうど帰ろうとしてたんだ」
橋本史雄五十一歳。鑑識畑一筋三十年。管理職となった現在でも、現場に出向き検査法を探求する実践主義者。
鶴岡は挨拶もそこそこに、Nシステムの画像解析を依頼した。