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「ふたつの祖国」
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前編U-10

「今、新大〇保辺りに行って見てご覧なさい。数百人単位で朝鮮人排斥デモ隊と、在日朝鮮人のカウンター部隊が、騒動を起こしてます」
「ああ。それならテレビで見ましたよ。但、あれは一部の日本人が、人種差別的デモを行っているのでしょう?」
「人種差別的デモ?とんでもない」

 恭一は不敵な笑みを浮かべた。

「──差別的な特別扱いを受けているのは、彼等、在日人の方ですよ。
 通名と言う偽名を使い分け、特別永住権の上、税金、年金を払う事も無く、生活保護を受けている者がどれだけ居ると思ってます。
 しかも、この事実を取り上げるマスコミは皆無ときてる」
「では、我々も排斥の対象になると?」
「ネット社会となり、マスコミが本来持つ“公正と真実”とは程遠い情報のみ取り上げている事に多くの人々が気付き、“在日人が優遇されている事実”を知れば、人々の採るべき道は、貴方々を“排除”の対象として行動する事でしょう」

 予想していた答えとは言え、李は落胆の色を濃くした。
 それ程、恭一の意見は的を得ていたのである。

「その事を聞きたかったのですか?」

 恭一は、グラスのロイヤル・スイートを喉に流し込み、李に訊いた。

「申し訳ない、つい、前置きが長くなってしまった」

 李はそう答えると、ティー・カップを脇に退けた。

「最近、私のバイヤーから聞いた話ですが、シリア政府軍が、武器の横流しをしているらしいのです」
「シリア政府軍が?」

 シリア内戦は、始まってニ年以上になる。独裁者であるアサドに不満を持つ民衆が、解放軍として打倒アサドに立った。
 迎え打つアサドは政府軍を率い、解放軍を暴徒として鎮圧しようとした。
 当初は、圧倒的火力差で政府軍の圧勝かと思われていたが、解放軍は有利なマンパワーを武器として、徐々に政府軍を追い詰め出した。
 時を同じくして国連は、シリアへの経済制裁を決議したが、友好国であるロシアと中国は反対したばかりか、体勢不利となっていた政府軍に武器を支援したのである。

「──私のバイヤーは、アメリカからの指示により、解放軍が対抗する為の武器を供与したそうです。トルコから国境伝いに。
 その時に噂で聞いたのは、中国とロシアは、シリアを隠れ蓑として第三国へ武器を流していると……」

 確かに面白い話だが、珍しい事では無い。

「御国は、同様の手口として、貴方をクッションにアフリカの紛争地域と関わっている事は、私が外事部にいた頃から知られてましたよ」
「いえ、私が言っているのは、そう言う意味では無いのです」

 李の眼が鋭く輝き出した。

「──単なる横流しでなく、何か強大な力が加わっているようなのです」
「強大な力……?」
「バイヤーの話では、それらは幾つものダミー会社を間に挟み、大量の武器を買っているそうなのです」
「それが、私とどう繋がるのです?」

 恭一には、李が何を言いたいのか解らない。

「本題に入りましょう、貴方に仕事の依頼をしたいのです」
「仰有ってる意味が解りませんが?」
「貴方に、私の言う“強大な力”の正体を突き止め、必要なら潰して頂きたいのです」

 突飛な申し出は、人に警戒感を植え付ける。おそらく李は、何かを“故意に隠して”依頼しているに違いない──恭一はそう感じた。


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