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贅の終焉
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唐突-1

失礼します。突然で驚かせてすみません。私はこういう者です。素性の怪しいものではありません。これが免許証とわたしの会社の名刺です。名刺が疑わしければ、そこに電話をしていただいても構いません。ホームページでお調べになってもよろしいです。
そうですか、大丈夫ですか。素性を信用していただいたということで、申し訳ありませんがお急ぎでなければ、少しのお時間よろしいでしょうか。ありがとうございます。お言葉に甘えてこちらに座らせていただきます。失礼いたします。
実は、突然お声をかけさせていただいてさぞ驚かれていることと思いますが、私にとっては計画的な行動なのです。貴女にお願いがあってのことです。
そうです。貴女にです。
ですが、お願いの前にお詫びをしておかなくてはなりません。実は貴女にお願いしたいと思った時に、私は貴女の素性を調べさせていただきました。
失礼なこととは承知しております。真に申し訳ありません。私の素性をお伝えした通り私にはまだ社会組織の一員としての責任もございまして、私の個人的な行動ではあっても迷惑をかけるわけにはいかないからです。貴女が普通の家庭の主婦であられることがわかりました。それだけで十分でした。
お願いとは何か聞いて下さるのですね。もちろんです。聞いていただいた後に貴女が無理だと思われるならば断わってくださって結構です。ただし、断られる場合は聞いた話は忘れてくださると助かります。私にとって誰にでもお願いできるお話ではないからです。
どうして貴女を知っているかですか。いや、正直貴女のことは素性として普通に家庭を持っておられる主婦であるということと、お名前しか調べておりませんのでそれ以外のことは何も知らないのです。何も知らないのに貴女でないとお願いできないなんてどうしてかと不思議に思われるのも無理はありません。当の本人の私ですら不思議な思いなのですから。
ごらんの通り私はもう年を取っています。この会社で40年務めまして昨年体調を壊したこともあり現役からは引退しましたが、今でも相談役として在籍しています。仕事一筋に突っ走って、恥ずかしながらこの年で結婚歴なしの独身です。自分ではノーマルなつもりですが、どれほどの縁談のお話をいただいてもご縁を感じる方には巡り逢わなかったのが理由です。それはそれで、それほどの必要性を感じてもいなかったので不幸であるとか特別残念だとは思わずにこの年まできました。
貴女を見かけたのはこの店でした。今年に入って2度ほど静かに本を読んでおられる貴女を見かけました。いや、正直申し上げまして2度目というのは偶然ではなく初めてお見かけしてからもう一度お会いすることができるのだろうかという期待をもって、この店に通いました。2度目に貴女を見つけた時にはもう見失うまいと決意していました。そして興信所に依頼した次第です。重ね重ねの無礼をお許しください。
私は初めて、胸の奥に小さな火が灯るような感覚を覚えました。この年で、です。今までに体験したことのない温かいほんのりとした灯りが貴女の存在を胸に抱いたときには、時にして燃え立つように熱く苦しくなったりするのです。興信所の報告で貴女が人の妻であり家庭の主婦であることを知っても、その事実は覚悟していました。当然のことであると思いました。ですが、あきらめようとは思いませんでした。いや、ご心配なさらないでください。願いが断られてもあきらめずに追いかけ回すようなことは致しません。私には責任と社会的立場がありますから、この年になってこのような感情を抱けただけで貴女と出逢えたことを感謝こそすれ貴女に決してご迷惑をかけるようなことは望んでいませ ん。
前置きが長くなって申し訳ありません。ですが、簡単にお願いできるような話でもないのです。貴女の気分を悪くさせて私は貴女に軽蔑されてしまうかもしれません。
それが恐いので、そうなればそれで仕方のないことなのですが軽蔑されることをあえて望む人間はいないわけで、いろいろ遠まわしに言い訳や理解を得ようとしてしまっているわけです。
でも、お時間をあまりとらせても申し訳ありませんから勇気をだしてお願いをします。
私に貴女と二人きりの時間をいただきたいのですがいかがでしょうか。
何時間とか具体的には考えていないのですが、貴女の主婦としての立場で無理のない時間で結構です。半日でも構いません。半日とはどれくらいなのでしょうね。自分でもまだ何の具体的なプランはないのですが、貴女の都合に合わせます。私に頂ける貴女との二人きりの時間がありましたらいつでも結構です。二人きりの時間をどのように過ごすのかは本当に今の時点で考えてはいないのですが、その時その時貴女が嫌だと思われる時にはそうおっしゃってくださって結構です。無理やりどうこうしようとは考えていません。この年ですし、このことは余分な情報かもしれませんが私は男性機能を果たせない可能性が大きいです。年齢のせいか昨年病気をしたせいかわかりませんがどちらにしても必要と する機会もありませんでしたから。私の云っている話はお分かりでしょうか。
そうですか。よかったです。
それで、貴女にお願いのお返事をいただきたいのですが貴女にもよく考える時間がご要りようですね。わかりました。
私の会社に電話していただいてもいいのですが、貴女から電話をいただけるかどうか待つのが辛いような予感がしますので三日後、私から貴女に電話をさせてください。
三日後ですから水曜日の午後一時にお電話します。電話番号を教えていただけますか。
今の段階で気持ちがNOであれば、でたらめな電話番号で結構です。三日後に私が貴女に電話をして繋がらなかったり別人の番号であった場合はそれが答えだとしてあきらめます。もうこの店で待ち伏せすることも致しません。お約束いたします。先ほども申し上げた通りその場合、貴女のお気持ちがNOの場合はどうぞ貴女も私のことはお忘れになってください。よろしくお願い致します。


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