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贅の終焉
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唐突-2

==思案==

藤沢 聡  確か免許証の生年月日では昭和22年・・・67歳。住所は都島区だった。
名刺を見ると、会社のことはわからないけどかなり大きな会社みたい。
現役は退いたものの、まだ責任があるといってたように、どこか引き締まった感性を感じた。
年齢では考えられないし、見た目がどうというのではないけれど、何か一般の67歳とは違う。
世界が違う・・・からか、環境の違いが不思議なオーラをまとわせているのか。

私は休日で、夫がゴルフのために一人の時間を楽しんでいた。朝食や昼食の支度に煩わされることなく
ゆっくりとブランチを味わい時間を意識することなくのんびりと読書に集中していた。

一人娘の由香里は京都の大学生で一人暮らしをしている。家から通えない距離ではないが
アルバイトやサークルの活動に熱心で家には滅多に寄り付かなくなった。
女の子だから心配という時代でもなくなったようだ。私の時代とはずい分違う。
私は父が厳しかったし、門限も今ではありえないほど早かった。学生時代をそれなりに楽しんだとは思うが
今の由香里のように奔放に行動できなかった。時代や環境のせいだけではないかもしれない。
気持ちの片隅にはいつも熱を帯びる炭火のように燃える真髄はあるのだが、それを表にだして行動に移すという
勇気がない。
そう、無難な人生を送ってきた。

それで満足・・・かどうかも改めて考えたことはなかったが、不満だと感じたこともなかった。

誠実な夫と恋愛し結婚した。
由香里を授かって、子育ての苦労も喜びも得た。
由香里が家を出て夫婦二人の生活にも慣れた頃、以前から手伝ってほしいと言われていた知人の
スポーツクラブの受付を引き受けることにした。
日曜日は夫がいるので休みをもらい、木曜日はクラブの休日となっていた。

水曜日の一時に、あの人から電話がある。それまでにどう返事をすればいいのか考えておかなければ。
二人の時間を持つとは、どういうことなのだろうか。
いや、ありえない。
どういうことであったとしても、知らない人とましてや年配とはいえ男性と二人で会う 理由がない。
理由・・・理由はないけれど、あの人はお願いだと言ってた。
どうして、お願いをされるのだろう。どうして私にお願いなんてされるのだろう。
私のような何のとりえもない・・・・どうして 私? 何のためにわたしが?

考えれば考えるほど、鼓動が荒れてくる。
突然お店で声をかけられたときは、突然すぎて冷静だった。頭がそこまで回っていなかった。
感じの悪いお方ではなかったし、休日の紳士らしいさわやかな白いポロシャツに綿のズボン。
白髪まじりではあったが整えられた短髪。穏やかかで丁寧な口調。
キラキラの成金ではなくて、控えめに見えるが醸し出される上質な雰囲気。

恋愛対象とか、ときめきとかそういうのではないけれど、品のある感性に魅かれるものがあり興味深い。

水曜日までに 何度同じ思考を巡回しただろうか
答えはでない。結局でない。 断ろうとまずは思う。だけど・・・と好奇心の炭火が胸のなかで首を持ち上げる。

断れば簡単である。きっとしつこくされることなく、即座に承諾されるであろう。
そして この不穏な気持ちから一気に解放される。 何もなかったかのように消滅される。

この 不穏でありながら、何かしら甘美なざわざわした気持ち。自ら期待をするわけでもない予想もつかないことなのに
だからこそ、目の前に突然突きつけられた謎の玉手箱。異世界への扉。
危険性やリスクは不思議と感じない。初対面でほんの数分の対話の中でも信頼の感触も確かだった。

大げさに考えすぎかもしれない。二人で逢ってお茶を飲んで世間話をして、それで終わる。
私自身そんな大それたものではない。あの人が私の何をどう気に入られたのかはわからないけれど
少し話をしてみれば、何ていうこともない。普通の退屈な主婦じゃないかと納得されるだけかもしれない。
そうだ、きっとそうだ。


こんな私に何かをお願いしたいと申し出てくれるような機会なんて、ましてやあのような老いてはいるが紳士が。
答えはやはり堂々巡りだった。準備している段階では答えは出せないでいた。




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