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贅の終焉
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唐突-8

==刻幸==

10時過ぎ、菜穂子は2755室のチャイムを押した。
前回ほどの緊張はなかった。だが、間をおいて返答がない。
日にちを間違えた?藤沢さんの都合が悪くなった?
菜穂子はしばらく待っていたが、2度目のチャイムを押すのを躊躇していた。

都合が悪くなったのであれば、藤沢さんのことだから連絡をくださるはずである。
2度目のチャイムのタイミングを迷っているとドアが開いた。

「お待たせして申し訳ありませんでした。どうぞ」
藤沢はキチンと服装を整えていたが、石鹸の香りがした。
「朝の会議が長引いてしまいまして、私も先ほど到着したばかりでした。朝からバタバタとしておりましたもので
すっかり汗をかいて時間がなかったのですがシャワーを浴びさせていただいておりましたもので、申し訳ありません」

菜穂子をソファに腰かけるように勧めると、藤沢は浴室洗面所を片付けて戻ってきた。
ルームサービスで飲み物を頼むので菜穂子は何がいいかと尋ねられてコーヒーをと答えた。

菜穂子は今回はこのスペシャルな部屋を観察したいと思っていたのだが、藤沢が利用した後に
見学させてほしいとは言い出しづらくなった。ベッドルームは未使用であるだろうが。
シャワーを浴びたにも関わらず、ガウンやタオルなどの姿ではなく、身なりを整えていることろが
いかにも藤沢らしいと菜穂子は生真面目さを感じていた。
ルームサービスが届くまで、石鹸の香りは微妙に気まずい空気で菜穂子はあたりをキョロキョロしていた。

「こういう部屋は珍しいですか」
藤沢が緊張の空気を和ませてくれる。
「ええ。個人的には一生来れないところだと思います。」
「どうぞ、よろしければ自由にご利用なさってください。いくつかの部屋があります」
「見せていただいてよろしいですか」
「もちろんです。今日も貴女のためのお部屋ですから」

菜穂子は自分のためにと言われたことで少し顔を赤らめて、そっと立ち上がった。
リビングを抜けて奥の部屋に向かう。
先ほど藤沢がシャワーを浴びたであろう浴室のドアは検討がついたので開けなかった。
その隣のドアはトイレ。そして向かいのドアをあけるとキングサイズのベッドルーム。
清潔に美しく整えられてある。当然のようにカバーも未使用のままでメイキングされている。

その隣にもドアが並んである。
ゲストルームが2部屋 セミダブルのベッドがツインで並んでいてデスクもある。
各部屋の中にシャワールームとトイレもある。

ショールームの見学のように、あちこちのドアや扉を開いては豪華さに感嘆の声が漏れる。

前回も、この部屋のどこも使わなかったなんて。
昼食までの時間を数時間あのソファで過ごしただけで、いったい幾ら支払ったのだろう。
いや、今更だが藤沢と菜穂子の金銭感覚はもともと別の世界の感覚なのである。

豪華さはあるが、ギラギラした装飾はない。
豪華と派手の違いを改めて納得したような気がする。
優雅であるのは、空気や時間の流れであり、目に見えない感覚に思える。



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