唐突-4
==願夢==
本当によく来てくださいました。感謝します。
いいえ、大げさではありません。 本当に心からありがとうございました。
お好みはわかりませんが、コースを用意していただいています。
好き嫌いは、おありですか?
そうですか。よろしいですね。私も大概のものはいただきます。
本当にこうして貴女と二人で食事ができるなんて夢のようです。
私は本当に幸せ者だと、そうですね・・・これは少し大げさかもしれませんが
人生67年で初めて実感しているような気もします。
先日も少しお話しましたが、この年まで女性に心が魅かれるというご縁が
残念ながらありませんでした。不自由も感じなかったわけですが昨年病気をしまして
ふと自分の人生を振り返る時間が持てました。
仕事にも恵まれました。多くの上司から学ぶものもあり、自分が上の立場に立った時には
多くの部下や社員と共に戦ってきた実感も得ることができました。社内に限らず本当に多くの人と
関わりを持ち、学び続けてきた40年でした。
貴女をお見かけして抱いた感情は、常識的にいうならば抑制しなければならないものです。
いえ、貴女をご主人から奪おうとか貴女の家庭を崩壊させるつもりはないんです。
それでも、どんなに言い訳をしても100%貴女に迷惑がかからないかと言われると
そうは断言できません。
何をどう取り繕おうと、ご結婚されている貴女に心を惹かれている事実は倫理に背くものだからです。
私がお約束できるのは、万が一貴女にご迷惑のかかるようなことがあれば
私のできる限りの代償をいたします。
今の私にとって、貴女に代わるものは何もありません。
この願望が得られないものであっても、それは変わりません。
私は昨年に命を落としていたかもしれません。そうであったのならば今のこの貴女との幸福はなかったことです。
そういう意味で私は今日にも明日にも 自分の命に保障を見いだせないのであれば
悔いることのない日々を送りたいと痛感いたしました。
貴女はまだお若い。ご家庭もお持ちであり幸せに暮らしておられる。
今の私とは全く違う立場です。
私のこの終末に近い人生とは大いに異なります。
ですから、このような私の勝手な欲望に付き合わされることを嫌悪されるかもしれません。
具体的に 貴女をどうしたいか ですか
そうですね それすらも正直なところプログラムしているわけではないんです。
その時 その時の 自分の感情、正直に欲望と言っておきましょうか。それらに任せたい。
事実、私には女性に対しての豊富な経験も知識もないわけですから。
貴女によって、女性が何たるかを教えていただきたいというのが正しいお願いかもれません。
先日も申し上げたように、私自身男性として貴女に何かをお与えできるわけではないかもしれません。
たぶん、できないでしょう。
そういうことを求めているわけでもないんです。
大きな声では言えませんが、貴女の素肌に触れたいとは思います。貴女の全てを隅々まで知りたいと。
だけど、貴女とセックスができるかと言えば、機能的に無理があると思います。
道楽が過ぎると軽蔑されますか
わからない。当然です。とんでもないことをお願いしているのは承知の上です。ご理解いただくのが難しいことも。
貴女のどこに惹かれたのか、言葉では何とも表現が難しいのですが、やはりインスピレーション。本能的直感。
そういったものが当たっているのか的外れなのかの検討もつきませんが、今こうして貴女を目の前にしてお話させて
いただいているだけで、胸がほかほかして、適度な緊張感で心拍数が上昇して全身に新たな血流が駆け巡るのを
心地よく感じています。理由を聞かれても明確な説明ができませんが、貴女に好意を抱いていることは確かです。
まことに勝手で、ご無礼なことと存じますが。
そ、そうですか。ありがとうございます。
こんな年寄が奇妙なことを申し上げましたが、軽蔑せずにいてくださるのですね。
やはり、貴女はお優しい方です。
いえ、そんな。そんなことはありません。私が一方的にお願いをしていることです。
貴女はこんな年寄の残り少ない色のない人生を憐れんでくださっているのです。
貴女が道徳的に心ぐるしく感じられるのはもっともなことです。
そんな清らかで真摯な貴女を、私の本当にわがままで貪欲な願望によって侵食することは
我ながらそこのところは、申し訳ないとしか言いようがありません。
また、自分のことばかりお話してしまいましたね
退屈させてしまったのではないでしょうか
そうでしたか、そういっていただけると嬉しいです。
私は貴女に大変好意とともに興味を持っておりますが、あえて貴女のことは探索いたしません。
現実の生活をされている貴女に関わりを持つことはよくないと考えているからです。
殻から抜け出した素の貴女を知りたいと願っています。
ここは、来られるのにご都合はいかがでしたか?
どなたかに出会ってお困りになる環境でもありませんでしたか。
そうですか、普段はあまりご利用されないですね。
では、もしよろしければ来月の第一木曜日 午前10時にロビーの喫茶でお待ちしていても
よろしいでしょうか。ご都合が悪ければキャンセルで結構です。
もちろん、私はぜひ、お逢いしたいです。
それと、これも誤解されると困るのですがぜひに納めていただきたい私のわがままです。
どうか、憤慨なさらないでください。貴女を値踏みしているのでは決してございません。
私の側の当然のお礼の気持ちです。花束を差し上げたいくらいですがそれもお困りでしょう。
どうか、どうか年寄のわがままをお納めくださいますように。