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『冬に至るまで』
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『冬に至るまで』-8

ちなみにコイツはバンドを組んでいて、そこでキーボードをやっている。
そのバンドは校内で結構な人気があり、伊澤自身なかなかのルックスだから、女子からいつもキャアキャア言われていた。

「伊澤君て可愛らしいから好き。」
とか
「何も知らなそう。教えてあげた−い。」
という声が、一部女子から上がっているのを聞いたことがある。

「いーざーわっ」

僕は伊澤の肩に腕を回し

「お前、女の子にモテていいな。」

からかってみると

「そんなことナイっすよ。神田さんの方がモテます。」

と反撃されたので、とりあえずヘッドロックをかけておいた。

「みんな僕のこと、勝手に御清潔君って決め付けちゃってるんです。」

部活の休憩時間になると、伊澤は僕のところへ来てそうこぼした。

「それじゃぁお前も、エロ本とか持ってるの?」
「もちろんです。」

間髪いれず、応えてきた。

「じゃあじゃあ、セーラー服着たお姉さま達が戦うアニメの同人誌とかは!?」
「・・・そこまで落ちてないとダメですか。」

僕と伊澤がそんな話をしながらじゃれていると

「もう休憩時間は終わりですよ。それに、何変なこと話しているですか。」

そう説教しながら、伊澤と同じ1年女子の江頭が呼びに来た。
江頭はサックスをやっていて、今回のコンクールで初めてソロを任されていた。

「大丈夫ですよ。私の才能を信じなさいっ。」

なんて言っていたが、本人はかなり緊張しているに違いなかった。

「今、伊澤君に人生哲学を教授していたのだよ。手取り足取り腰取り。」
「なんですか、その最後のは。・・・ともかく早く来てください。先輩も、部長なんだからしっかりしてくださいっ」

真っ直ぐで長い髪とつぶらな瞳が印象的ななかなかの美少女だが、いかんせん口が悪すぎる。
ムキになりだした江頭に

「俺、弥永先輩のお墨付きに巧いから、寝てていいよな。」

伊澤が茶化しにかかると、

「はっ。あんた調子に乗ってると、張り倒すぜ」

江頭は中指を伊澤に突き立てて、練習室の方へ行ってしまった。

「怒られちゃいました。」

伊澤が首をすくめる。


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