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『冬に至るまで』
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『冬に至るまで』-9

「まぁ初めてのソロは誰でも気が立つもんだから。ってか、お前、江頭相手だとあんな風なことも言うのな。あんま、好青年ぽくなかったぞ。」

僕はそう笑うと、立ち上がった。
コンクールは目の前だった。




コンクール前日、母親が突然

「お父さん、一度遼一のコンクール行きたいって言っていたのよ」

と言い出した。

「そう。」

自分で思ってよりそっけない声が出て、焦って顔を上げると、泣きそうな母親の目とぶつかった。

「お母さんの事、薄情な女だって思ってるでしょ。あんまりお見舞いにも行かないで、仕事ばっかりして。」

図星をさされ、僕は何も言えなかった。

「怖かったのよ。日に日に痩せていくお父さんを見るのが。」

目を背けたかった・・・小さく母親は呟いた。

「そう。」

今度は思ったより、優しい声がでた。
正しいとか間違っているとか、許すとか許さないとかではなく、母親も一人の人間なのだ、と思った。



そしてコンクール。
凄かった・・・・というより楽しかった。
コンクールで僕達は、見事1位を取った。
その打ち上げでカラオケに行った。
さすがに居酒屋に高校生は入れてもらえない。
しかしみんなカラオケボックスなのを良いことにカクテルやらカンチューハイなどをバシバシ頼んでいた。
はっきり言って、これでは居酒屋と変らない。
でも僕は、こういう雰囲気が好きだった。
適当に歌いたい歌を歌って、適当に飲みたいアルコールを飲み、皆が好き放題にやっている。
2月に入ってから日曜の休みもなく毎日毎日同じ曲を練習してきた。
やっと解放された。
しかも1位というすばらしい結果で。
これが飲まずにやっていられるか、という感じが皆から溢れ出ていた。
僕はというと、酒が弱いのは自分で知っていたので程々にしておいた・・・つもりでいた。

なんだか甲高い声がすると思って横を見ると、弥永がカクテル一杯飲んだだけでキャハハハと笑いつづけていた。
普段の落ち着いた声とは雲泥の差。
どうやら彼女は笑い上戸らしい。
どうかそのあと泣き上戸に転換しないでくれよ、とからかおうとした時、

「神田さーん」

酒に酔った伊澤が絡み付いてきた。

「おう。よしよし。」

先輩らしく介抱してやろうとすると

「ぼくはぁ、よく昔、親父に殴られてたんすよー」

酒の勢いに任せて、伊澤はそんなことを語り出した。


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