『マイ・リトル・リグレット』-4
バスルーム横の洗面台から歯ブラシを持ってきて、M字に開いた両脚の中心めがけてそれを挿入した。
そしてマニキュアを掻き出すように膣をこねくりまわす。
気持ちいいのは知ってるから、いい加減に出てきてよ、もう──。
勝手に溢れてくるエッチ汁が、排水口に向かって緩やかな道すじを描いている。
それに加えて、湯船で戯れるような音が、くちゅくちゅちゃぷちゃぷと鳴るから、耳まで感じてしまう。
これじゃあ駄目か──。
気を取り直して、ほかの道具も試すことにした。
箸を一膳、それからティースプーン、ピンセット、編み物で使う棒針とかぎ針。
およそこれらで事足りるだろうと思って、正面に置いた鏡に局部を映しながら救出作業をやってみたところ、残念ながら良い結果は得られなかった。
後片付けのことなどちっとも考えてなかったので、使用済みの道具たちは私の体液でどろどろに汚れて、一人前の男に生まれ変わったようにも見えた。
それでも一応、三回もイけたのは収穫だった。
明日は日曜日だから仕事もあるし、これからのことは明日考えようっと──。
結局その夜は、下着を汚さないためにおりものシートをあてて、マニキュアと一緒にぐっすり眠った。
*
翌朝は二度寝のせいで時間に余裕がなく、微かな異物感に悶々としたまま出勤した。
「今日の千晃、なんか顔色が悪いよ?」
お昼の休憩でミックスサンドにぱくつきながら、姉御肌の美帆が私に言った。
口につけたマヨネーズがチャームポイントになっている。
「別に、そんなことないよ」
「あたしの目はごまかせないざます。白状なさい」
ほんとうのことなんて言えるはずがない。
「じつは、ちょっとだけ貧血気味なんだ」
「だったら休めばよかったじゃん」
「これくらいぜんぜん平気だってば」とピースサインを決めた瞬間だった。
下腹部のあたりに鈍痛を覚えた私は、おにぎりの具に到達することなく食事を断念した。
「だから言わんこっちゃない。あとでお見舞いに行ってあげるから、ハウスで大人しくしてなさい」
「あたしは室内犬じゃないよお……」
ぐすん、と私は泣きべそをかいた。
しかしこうやって心配してくれる女友達がいるというのは、めちゃくちゃ心強い。
というか、まともな理由で具合を悪くしているのなら、もっと素直に喜べたはずなんだけど。
*
美帆の気遣いによって仕事を早退した私は、アパートに着くなり気怠い息を吐いた。
病院で診てもらおうにも今日は日曜日で休診だし、もし診察が可能だとしても、こうなった経緯を医師に説明するとなると、色んな意味で私は傷物になってしまうのだ。
だめだめだめだめだめ。
恥ずかしくて、顔から火が出ちゃうよお──。
火照った頬を手で扇ぐ私。
そうして夕べとおなじく浴室にこもりっきりになって、シャワーのお湯で膣内洗浄してみたり、一人エッチみたいな真似をごにょごにょとやってみた。
すると不思議なことに、黄色っぽいおりものが出たかと思うと、下腹部の違和感が嘘みたいにすっと消えていった。
あの痛みは一体なんだったんだろう──。
急に調子が良くなったもんだから、私はまたいけない一人遊びに夢中になって、とろとろにふやけたそこを快感の絶頂に連れていってあげた。
事を終え、シャワーヘッドから滴り落ちる水滴の音に、胸のどきどきもしだいに消去されていく。
とりあえず一安心、かな──。
部屋着に着替えた身体をベッドにあずけて、ひとまず安静にすることにした。
私はそこで悪い夢を見た。
どんなふうに悪いのかはわからないけれど、とにかくネガティブな内容であることは確かだった。
うなされて目が覚めると窓の外はすっかり暗くなっていて、寝汗を含んだキャミソールがちょっとだけひんやりした。
そして何かに取り憑かれたように携帯電話をいじり、気になるキーワードを打ち込んで検索する。
そこから導き出された事実を目にした私は、さらなる不安の渦の中へと引きずり込まれていった。
子宮筋腫……、子宮内膜症……、カンジダ膣炎……、卵巣癌……。
女性器疾患だけでも、こんなに色々あるなんて──。
私はもう人体の仕組みの複雑さに目を回し、ひたすら後悔に後悔を重ねながら夜を明かした。