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シテはいけないことをスルということ
【その他 官能小説】

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『フラゲに注意』-5

 笑いたければ笑えばいいさ。どうせ最後に笑うのはこの俺なんだ。

 心の中ではそんなふうに強がってみるが、顔中の筋肉にもそろそろ限界が近づいていた。

「お待たせしましたあ」

 ようやく戦利品を受け取った俺はさっさと支払いを済ませて、「ありがとうございましたあ」というスタッフの声を後頭部に浴びながら脱出を試みた。

「きゃっ」

 すぐそばで小さな悲鳴が聞こえた。足を止めて声の主を探してみると、そこにはあの彼女がいた。
 誰かとぶつかったのか、彼女の足元には財布が落ちており、中身のカード類やらレシートが床に散乱している。

 ぶつかった相手がどこにも見当たらない。一体どこのどいつだと怒りを感じながら、俺は自分らしからぬ大胆な行動に出ていた。

「怪我はありませんか?」

 床に散らばった物を何枚か拾い、俺は彼女にそう訊いた。
 彼女はすぐに反応し、ゆるくまとまる髪を耳までかき上げると、顔の正面をこちらに向けて微笑んだ。

「すいません。ありがとうございます」

 俺はこのとき、人生で初となる金縛りに遭った。
 それもそう簡単には解けない強力なやつだ。

 彼女の睫毛の一本一本までが数えられるほどの距離で、愛らしい眼差しをまともに喰らい、おまけに果物みたいないい匂いを届けてくれる。

 照れ隠しのために視線を逸らせば、そこには彼女の膝小僧や太ももが立ちはだかり、肌色のハイライトがむんむんと色気を放っていた。

 あのショートパンツがあと一センチでも隙間をつくれば、彼女のデリケートな陰部と対面できそうだが、そうならないのが残念であり、妄想好きの俺には嬉しくもあった。

 もちろん鼻の下は伸び放題で、嫁入り前の清潔な身体に欲情しっぱなしである。

 ふとして俺が手にある物を「どうぞ」と差し出すと、「どうも」と彼女が受け取る。
 その指先のネイルにさり気なく付着したラメがまた好感度を上げていた。

 可愛すぎる。けどここでお別れだ。さようなら──。

 金縛りの残る重い身体をぎくしゃくさせて、俺は今度こそ帰るべき場所へと歩むのだった。



 アパートにて、俺は歓喜に震えていた。
 さっきの店で俺が拾い上げた物、それは彼女の運転免許証だったのだ。

 生年月日や住所までは見ている余裕がなかったものの、あの一瞬で『新井理沙』という部分だけは記憶することができた。
 読み方はアライリサで間違いないだろう。

 理沙ちゃんていうんだ。いい名前だなあ。一緒に萌え萌えごっこしたいなあ──。

 萌え萌えごっことは、ずばりセックスのことである。
 そんな俺の切実な願いを叶えてくれるのが、彼女のフェミニンな香りが染み付いたこの服の数々なのだ。

 俺は部屋の中央に敷き布団を広げて、そこへ買ったばかりの洋服たちを人型に並べると、にやにやと頷いた。

 これでよし──。

 白いブラウスとシフォンスカートは彼女が実際に身に着けた物だし、そのほかのベルトや七分袖のTシャツ、それにカラータイツは彼女が触れた物である。

 つまり、これらすべてに理沙ちゃん……いいや、理沙の魂が宿っていると言っても過言ではない。

 俺はとりあえずその全容を携帯電話のカメラにおさめて、コレクションとして保存した。
 そして布団にダイブ。顔面にブラウス、下半身にスカートの存在を確かめながら、両手で平泳ぎの恰好を真似てみた。

 はて?──と俺は物足りなさを感じて、そこにある理沙の全身を舐めるように眺めた。
 これはこれで楽しめるのだが、危ない一線を越えたという実感が湧いてこないのだ。
 その証拠に、俺の股間もしょんぼりしている。

「理沙……」

 俺は彼女の名前を呟き、ごろんと仰向けに寝転がった。
 その足に何かが当たり、ひっくり返る気配があった。

 うっかりしていた。見れば、コインランドリーから持ち帰った洗濯物が、まんまの状態で部屋の一画を占領していた。

 面倒臭いなと思いながらも段ボール箱の中身を探っていると、ごわごわとした手触りの中に、すべすべの感触があった。
 洗剤の溶け残りだろうかと思い、俺はそいつを「えい」と一気に引っ張り出してみた。

 うん?ええ?えええええ!?

 自分の手中にある個体を見るなり、俺は驚愕のあまり大口を開けていた。顎が外れそうだ。

 ちょっと落ち着こうか──。

 なぜここにこんな物があるのか、その謎を明らかにしなくてはならない。
 おしゃれで素敵なこの衣はつまり、女の子が穿く下着と呼ぶべきか、それともパンツ、あるいはランジェリー、やはりショーツとしておこうか、まあどうでもいいけど、その現物が今ここにあるということだ。

 こっちが右脚で、こっちが左脚、ここにお尻がきて、するとこの部分であそこを包み込むわけか。
 もうだめだ。考えただけで射精してしまいそうだ──。

「もしかしてこの下着、あの子がなくしたやつかも」

 俺は思わず呟いた。純白の生地、レースの刺繍、なめらかな触り心地、どう見積もっても熟女向けの下着ではない。


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