記-5
ろくに時刻表も見ないで、行き当たりばったりの電車に乗った。
早朝のせいか、車両の中は、とくべつ空いていた。
乗客は皆、男女を問わず、眠そうな顔をかしげている。
もはや朝焼けとも言えない白々した景色が、ようやく一日のはじまりを告げているような気がした。
線路を駆ける電車の音をバックグラウンドに、昨日までのことと、今日からのことを、眠たい頭で考えていた。
『電車は人を運ぶのではなく、人の気持ちを運んでいる』
今の自分に似合いの、そんな言葉が、照れもなく浮かんだ。