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和州道中記
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和州記 -茸奇譚--6

つまり、催淫効果のある茸――早く言えば媚薬のようなものを二つも一紺が食べてしまったのが原因らしい。
食べ過ぎたり、効果があまりにも強いものを食べると危険らしく、一紺の呼吸困難も茸のせいのようだ。
『二つも食べたのですか!』
『いや、そら美味い茸やったから…な?』
『良く御無事ですなぁ…』
そんな先程の主人と一紺との会話を思い出す。
しかし、自分が食べていたら…と考えると竜胆はぞっとした。

「ちょ、おい!竜胆!」
部屋の襖を豪快に開けた一紺は、眉間に皺を寄せて竜胆に迫った。
どうやらようやっと茸のことが訳分かったらしい。
「…何で茸のこと黙ってたんや」
「私だって知らなかったんだ」
「あ゛〜!惜しいことしたッ!何で無理やりにでも食わせなかったんや!」
そんな無茶な、と竜胆は思う反面ほっと胸を撫で下ろす。
がっくりと肩を落とす一紺に、竜胆は呆れたように声を掛けた。
「落ち込むな」
「せやかて、こんな機会滅多に…」
仕方ない、と竜胆は半ば呆れたように小さな声で言った。
「落ち込むな…ほら…その…今夜も付き合ってやるから」
「ほんまかッ?」
この大騒ぎは、これが狙いか、と竜胆は思わず歯噛みした。
先程の落胆が嘘のようだ。嬉しげな一紺とは反対に竜胆は溜息をつく。
(まあ、いいか)
彼女は旅の支度を済ませると、早く行こうと一紺を促した。
今日も快晴。
青空の下、歩く竜胆は心の中で呟きを漏らす。

(…たまには、喜ばせてやらないとな。いや…逆に驚くか?)
一紺に、『彼』のおかげで上手くなった口戯を披露したならば。


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