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パレット
【純愛 恋愛小説】

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PINK color-7



「・・美桜?」
「・・読んだ?」
「あぁ・・読んだよ。」

主語が無いけど、多分絵本のことだと思った。
美桜は俺の答えを聞いて、俺の手を掴んだまま立ち上がった。そのまま美桜の仕事部屋に。
なんだろう、と一人訝しんでいると美桜が仕事机の上からイラストを掴んで俺の前に差し出した。

「・・これが、続きなんだな?」

そう聞くと、美桜は小さく頷いた。
多分、俺の用事がコレだと分かっているんだろう。それだけじゃないんだけどな・・。
とりあえず、受け取って読むことが先だ。
美桜の手から絵本を受け取ろうとした瞬間、俺の視界に写っていたイラストが急に消えた。
前と同じだなと冷静に考えながら絵本の行方を辿ろうと視線を彷徨わせると、美桜の身体の後ろにイラストが見えた。
多分、美桜が隠した。
何故そうするのかが分からずに、俺は静かに何か考えているような美桜を見た。
俺たちの間に少しの静寂が生まれた。だけど、前と違って、美桜が口を開いた。

「・・・続きの言葉。」
「・・え?」

美桜の呟きの意味が分からず首を傾げた。
真っ直ぐ俺を見つめる藍色の目が、少し潤んでいるような気がするのは俺の自惚れだろうか。弱々しい姿を見て、この状況を振り切って抱きしめたいと思っている俺は変態だろうか。

「絵本の、続き。泣きながら愛を知らない辛さを訴えるネコに、高く抱え上げたワンコが言った言葉・・」
「・・・・」
「慧なら、分かる・・」

そう言葉を紡いで、変わらず俺を見つめる美桜。でもやっぱり、その潤んだ目は、俺に言葉の続きを分かって欲しい、言って欲しいと言っている気がした。
でも、俺だって伝えたい。愛されたことがないと言った、美桜に。ネコに。
あの時から変わることのない気持ちを。

「・・『だったら、俺が一生愛する!ずっと傍に居て、誰よりもお前を愛する!それなら、愛されるって実感するだろ?』」
「・・・・」

今にしてみれば、小学1年生が言うような言葉じゃない。でも、美桜を愛したい気持ちから出た言葉だった。
その言葉を聞いた美桜はそっと絵本を差し出した。
静かに受け取って、一枚目を見る。そこには、満面の笑顔をネコに向けて、今俺と同じ言葉が綴られていた。
間違っていなかった事に小さく安堵していると、美桜から続きを見るように目で催促された。
これで絵本が終わりだと思っていた俺は驚きながら2枚目を取り出した。




『ネコは初めて自分を愛してくれる人に、嬉しくなりました。
 
 そして、ずっと、この人だけが傍に居てくれることを強く願いました。

 この人だけ、居てくれれば、何も要らない・・。

 この人にだけ、愛されたい。』

『ネコはそんな気持ちを込めて、ワンコにギュッと抱きついたあと、
 
 今まで人に見せたことのない笑顔で笑いました。』

『それから2匹は永遠という時間の許す限り、手を繋いで幸せに暮らしました。』




「・・この、終わり・・って・・。」
「・・ハッピーエンド」

ありえる訳のない言葉たちに、俺の思考は上手く機能してくれない。
頭の中が真っ白でどうしていいか分からない。
そんな俺に構わず、美桜は一歩俺に近づいた。

「どの絵本にも訪れる、ハッピーエンド。でもそれって、絵本だけ?」
「・・美桜・・」
「・・現実は?・・・私達には、訪れないの?」
「・・・・」
「私は、ハッピーエンドになりたい。・・他の誰でもない、慧と」
「・・美桜っ!!」

イラストを机に放ると、美桜を勢い良く抱き締めた。ずっと感じたかった温もりに、めまいがする。
美桜は何も言わずにただ俺にされるまま。だけど、それで良い。

「美桜、俺・・ずっとお前が好きで、大好きで・・っ!」
「・・・うん。」
「お前の傍に居たいんだ!」

ありったけの気持ちを込めて、さらに抱きしめる腕を強くすると、だらんと下がっていた美桜の腕がゆっくり動いた。そしておずおずと、俺の背中に回された。

「・・私だって・・慧だけ居てくれれば、良い・・」

とても小さな声で、耳元で囁かれた言葉に美桜の気持ち全てが入っている。
強く抱きしめて愛の言葉を惜しみなく美桜に告げる。

高ぶった気持ちが少し落ち着いて、久しぶりに身体を離して顔を見る。
その藍の目にはさっきまでのような潤みなんて見られない。ただ、珍しく見る微笑み。
俺は、一つ深呼吸した。

「・・俺、美桜の、恋人として、変わらず傍に居ていいか・・?」
「・・・そんな言葉じゃやだ」

ぐっ・・こいつ・・。本当に高飛車な猫だなっ!

「・・一生、俺がお前を愛してく!・・だから、俺に飼われてくれませんか?猫さん」
「・・・ワンコに飼われるのも、良いかもね」

後半の俺の冗談に、小さく笑うと強気な笑顔を見せる美桜。
それにからかうどころではなく、俺は本気で嬉しくなってまた美桜を強く抱き締めた。





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