無形の愛<龍二の事情>-1
見慣れぬ天井、二人じゃ狭いセミダブルのベッド、
隣では黒髪の少女がスヤスヤと気持ち良さそうに寝息を立てている。
いつものように何食わぬ顔で加奈の部屋を訪れ、
いつものように抱き、そして眠る。
いつまでもこんなことを繰り返すべきじゃない。
俺みたいな枯れたオヤジはともかく、コイツはまだ若いんだ。
もっと色んな経験をして、色んな人と出会わなきゃいけない。
なのに、そんな考えとは裏腹に、きつく肩を抱き締め離さない俺がいる。
黒の他人だなんて恰好つけたこと言いながらも所詮は、
女にはまってしまう滑稽な自分を戒める幼い言い訳。
俺はもうとっくにこの女にはまってしまっている……
「んっ…… あれ、龍二……さん?起きてたんですか?」
寝ぼけ眼を擦りながら俺の顔を覗き込む加奈。
長い髪を掻き上げるその仕草が、奈美子にダブってしまい心許ない。
別に俺は加奈が奈美子の娘だからって惚れたわけじゃない。
アイツと比べることになんの意味もないことくらいわかっている。
なのに、加奈の一挙手一投足がいちいち奈美子と重なってしまい、
そのたび困惑してしまっている自分が情けなくてたまらない。
「……どうしたんですか?恐い顔して?」
「生まれつきだよ……」
苦笑いする俺の頬にそっと手を当てる加奈。
「そういう意味じゃありませんよ?何か……悩みごとでもあるんですか?」
普段は天然で鈍臭いクセに、こんな時だけ鋭い女。
まぁ、さすがにその悩みが自分のことだなんてことまでは、想像出来てないみたいで助かる。
「気のせいだよ?それよりシャワー借りていいか?」
「あ、はいっ なんならお風呂溜めますけど?」
「いや、軽く汗を流したいだけだから……」
「そうですか…… どうぞ、遠慮無く使ってください。あ、そうだ!そのあいだ龍二さんのパソコン貸してくれません?少し調べ物がしたいんですけど……」
「ん、ああいいぞ?ノートだからあんま速度でねぇけど……」
「いえいえ、ちょっと会社で気になった言葉を調べたいだけですから」
そう言うと加奈は小さな手で俺のノートPCを膝にのせると、
おっかなびっくりに電源を入れはじめた。
「操作は…… この前教えたからわかるよな?」
「はいっ ばっちり覚えました!」
「そか、なら俺はシャワー浴びてくるな?」
ぽんぽんと加奈の頭を右手で軽く叩くと、ベッドを降り浴室に向かう俺。
普段なら一緒にはいるかと誘うところだが、たまにはこういう日があってもいいだろう。