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黒の他人
【ラブコメ 官能小説】

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無形の愛<龍二の事情>-2

カランを捻りお湯を調整すると、滝のように流れるシャワーを頭から浴びる俺。
別に嫌なことがあったわけじゃない。
悪いことがあったわけでも、取り返しのつかない失敗をしたわけでもない。

ただ、なんとなく胸がもやもやしておさまらない。

加奈を想えば想うほど、なんとかしてやりたい自分と、
なにをしてやればいいのかわからない自分が鬩ぎ合ってしまう。

本当は簡単なことのはずだ。

多分、俺が一歩でも歩み寄れば、俺が一言でも思いを告げれば、
きっとそれだけで何かが変わる、そんな気がしているのだけれど……

(それが出来ないからこうして悩んでるんだよな……)

いつから俺はこんなに臆病になったのだろう。

いや、そんなこと考えるまでもない。
唯一無二とも言える過去に俺が惚れた女。
突然、何も言わず俺の前から消えたあの女がトラウマになっているのだ。

(そしてその女の娘に同じ想いを抱くなんて…… そりゃ臆病にもなるさ……)

流れるシャワーの中で、誰にも聞こえぬように大きな溜息をつく俺。

加奈と奈美子は違う。母娘であれもちろん別人であり、ひとりの人なのだ。
そんなこと、誰に言われずともわかっているはずなのに、
どうしても二人をダブらせてしまっては二の足を踏む俺がいる。

浴室を出て身体を拭くと、ゆっくりとまたベッドへと戻る俺。

調べ物をしたいと言っていた加奈はいずこへ、
すっかりマウスを握り締めたまま、またも眠りについていた。

「おい?そんな恰好で寝てたら風邪ひくぞ?」

「……ん むにゃ」

PCの画面にはなんだかよくわからない小難しい建設用語の羅列。
のちのち父親の会社を継ぐのだろうか?
よくよく部屋を見てみると、それ関連の書籍が結構置いてあることに気づいた。

天然で鈍臭い小娘のクセに、見えないところで色んなものを背負っている加奈。
そのひとつでも俺が持ってやれればいいのだが、
まだいまはそれを告げる資格さえ俺にはないように思えて……

「ったく、早いとこ気持ちにけりつけなきゃな……」

「んにゃ?けり……?」

べったりと俺の身体にその身を寄せた加奈が、ふと独り言に反応を示した。
けれど、すぐに目を閉じたかと思うや、むにゃむにゃとまた眠りに落ちていく。

「……加奈?俺のこと好きか?」

「ん…… 好きぃ……」

躊躇いもなくそう答える加奈に、思わず顔を赤らめてしまう俺。
いっそ俺が寝てる時にでも同じことを聞いてくれないだろうか?
そうすればきっと俺も……

そんなことを考えながら、気がつくと俺は加奈を抱き締めたまま眠りについていた。


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