無形の愛<龍二の事情>-3
翌朝、いや、すでに十一時をまわっているのでお昼だろうか。
隣に加奈の姿はなかった。
こういう時、会社通いは大変だなと思いながらリビングへと向かうと、
テーブルにはご丁寧に食事の用意がしてあった。
──鍵はポストにお願いします。加奈──
相変わらず素っ気ないメモ書き。
でも、その下に小さな字でこんなことが書き足されてあった。
──出来れば帰って欲しくはないですけど──
まったく、寝起きからしてやられる。
誰もいないからいいものの、こんな強面の男をにやけさせてなにが楽しいのやら。
俺は加奈の作った料理を口にしながら、ぼんやりと今日の予定を考えていた。
頼まれていたプログラムの納品、紹介された新規顧客との打ち合わせ、
フリーのプログラマの予定なんてあってないようなものだ。
どんなに時間が押しても五時にはまたここに帰ってこれるだろう。
俺は本棚に向かい、読みかけの書物を手に取った。
建設業なんて畑違いだけれど、3Dソフトを使うくらいなら俺にも出来る。
別になんのためにだなんて深く考えてはいないけれど……
──多分、のちのち知っておいて損はないだろうから。