デネブの館-23
「アイ、一度聞きたかったんだけど、何故占い師になろうと思ったんだ?」
「それは――わたしね、昔、ある占い師に占ってもらったことがあったの」
アイには既に家族はいない。
彼女が高校の時に両親を事故で亡くし、以後親戚に世話をしてもらったものの、あまりうまくいかなかったらしい。
それで、高校の時からバイトに精を出し、必死に金を貯めたのだという。
一人で生きていく為だ。
だが、どうしようもなく孤独を感じた時に、偶然にある占い師に会うことになる。
その占い師はデネブと名乗った。黒ずくめの神秘的な女性だった。
アイがタロットカードを引くと、塔のカードが出てきた。
一般的には、かなり悪い意味のカードである。しかし、デネブは良いカードだと言った。
『確かに、辛い試練が次々に振りかかるかもしれない。
だが、人は試練を乗り越えて逞しくなる。試練を乗り越えようとする人の背後には必ず見守ってくれる人がいる。必ず支えてくれる人が現れる。
だから、強く生きなさい。強くおなりなさい。そうすればきっと、幸せになれるから』
デネブはそう言ったのだという。
「わたし、単純だからすっかり感動しちゃって。それで、わたしも誰かを励ましたいと思って――」
それで、アイもデネブの姿格好を真似て、占い師を志すに至ったのである。
「でも、わたしじゃ、無理だわ。ああいう風に、占って人を励ますことが出来ないの」
「前に女子高生の話、俺にしただろう? 喜んでくれたって、言ってたじゃないか」
「それは、でも」
「一流の占い師の真似なんて、そう簡単に出来るもんじゃないさ。同じ人間になりきれるもんでもないだろう? アイはアイらしくやればいいんだよ」
「占い師を続けたら、あなたと一緒にいる時間も」
「俺が悪かったんだ。俺が子供みたいに駄々をこねた。お前のことを、好きになってしまったから」
俺は、言ってしまっていた。もう恐れも、後悔も無かった。
アイは驚いたような顔をして、俺を見つめている。
「信じた道をそう簡単に手放さない方がいいさ。アイに励まされた人間も、必ずいるはずだから。疲れた時は、ここで休むといい」
「わたし、ずっとここに居てもいいの?」
「ああ。家賃もいらない」
「――ねぇ、明日は、休みなんでしょう?」
「あ? ああ」
アイは俺にそう訊くと、突然飛びついてきた。