デネブの館-22
「落ち着いて考えよう。――なあ、何があったんだ?」
アイは重い口を開けて、心情を吐露した。
テレビの取材を受けてから、『デネブの館』は大いに繁盛したようだ。
最初は客が大勢訪れたのが、うれしかったのだという。
しかし、その思いは長くは続かなかった。
大勢の客が、彼女の占いを必要としていないことに気がついたのだ。
テレビで見たという理由で、単に記念に訪れただけの客ばかりだったらしい。
写メを撮るだけで帰ったりする客ならまだ良かった。
ナンパに訪れてしつこく口説きに来たり、AVの出演依頼などということまであったそうだ。
金は儲かったが、アイは本当は自分が誰からも必要とされていないのではないかと思うようになっていった。
もう一つの原因は、俺だった。
俺との関係が冷え込んだことは即ち、俺からも必要とされていない。
そう思うようになり、アイは、精神的に孤立を深めていたのだ。
「だから、辞めるの。一緒に居ても、いいでしょう?」
アイは俺に懇願するように見つめた。
俺は、それでもいいという気がした。帰ってくれば、いつもアイが部屋にいる。
望ましいことではないか。だが、アイは本当にそれでいいのか。
悪魔のカードを思い出した。カードの下には男女がいるのだ。
男は俺、女はアイなのではないかと何の脈絡もなく思った。
悪魔は人間の弱い心そのものである。アイも、心に悪魔を宿している。何故か、そう確信した。
それでは、うまくいかないのだ。それでは、恋人にはなれない。