デネブの館-18
「いらっしゃいませ。おや、お客様、酔っておいでですか?」
「あ、ああ、すいません。何か不思議な香りがしたものですから」
中の住人は、やはり黒ずくめで黒いとんがり帽子を被った女性であったが――。
アイではなかった。アイより、もっと年上で、静かで落ちついた雰囲気を湛えている。
濃いメイクをしているが、占い師らしい神秘的な演出の一つと言えるようなものだ。
「今日は誰かが見えるような気がして、香木を焚いたのですよ。伽羅と言います。お客様のように、悩みを抱えた方を落ち着かせますから」
「そういう風に、見えますかね?」
「フフ、悩んでなければ、そこまで飲み過ぎはしないでしょう。だいたい理由も分かります――女性、でしょう?」
「…………何故?」
「おや、当たりましたか? フフフ、いや、人の悩みなどは何通りしかありません。金か仕事か恋愛か健康。その中の一つを、当てずっぽうで言ってみただけです」
切れ長の瞳が、俺を見つめている。
当てずっぽうのようには思えなかった。
切れ長の瞳が、俺の心の中まで見通しているような気がした。
魔女の手の中で、カードがシャッフルされている。
俺が何かを頼むまでもなく、魔女はカードをテーブルに並べ始めた。
タロットカード。アイのものと同じだ。
魔女は何も言わずに、手を差し出して、俺にカードをめくるように促した。
めくって出たのは、悪魔のカードだった。
「フフ、まさに今のあなたにはぴったりのカードですね」
魔女は悪魔のカードを手に取り、面白そうに笑った。
「あの、悪いカードなんですか?」
「どう思われますか?」
「それは、悪魔なんですから、いい意味ではないのでは?」
魔女は微笑みながら、一拍置いてゆっくりと答えた。