デネブの館-11
「なんだ、いいことでもあったのか?」
「昨日ね、女の子が来たの。女子高生のお客さん。髪が長くてサラサラで真面目そうな子だったわ」
「へぇ、それがいいことなのか?」
「好きな男の子が居るんだけど、上手くいくかどうか占って欲しいって、真剣だったの。それでわたしも真剣に占ったんだけど、いいカードが出てね。とても喜んでくれたわ」
「ふぅん」
つまる所、彼女の占いで元気づけられたことが嬉しかったようだ。
それ以前にいつも真剣に占った方がいいのではないかと思わないでもなかったが――
そんなことで嬉しがるところが、妙にピュアだった。
相槌を打ちながら、毎朝恒例のタロットカードめくりをする。
「節制の逆位置ね……したい事をあまり無理にすると、災いが起こるわ」
ドキリとした。
先週が先週だっただけに、俺は今週こそはアイとゆっくりしたかったのである。
それをすると、いけないと言うのか。ただでさえ、一緒に居る時間が少ないのに。
アイは、それをどう思っているのだろう。
「あのね、今日はわたしの仕事運いいみたいなの。運命の輪、チャンスのカードを引いたのよね。だからわたし、今日は仕事に出ていいかしら?」
「なんだよ、日曜は仕事しないって決めたろう?」
「でも、わたし収入少ないし――今日はいい予感がするから」
「俺はどうでもいいのか。先週だって、途中までだったし」
「――あなたは体ばかりで……わたしのことを、見ていてくれないじゃない」
「悪いかよ。家賃も食費も、全部俺が出してるんじゃないか。それくらい――」
何か妙に腹が立った。所詮、俺達はお互いの利害の為にお互いを利用しているだけだ。
俺は、アイの体を。アイは住処を求めて。
アイは俺よりも金にならない占いを取るというのか。一日せいぜい三千円の占いを。
俺はアイのことを、これでも心配してやっているのに。
頼ってくれれば、もう少し相談に乗ってやるのに。俺よりも占いだというのか。
アイは哀しそうにしていた。哀しいのは、俺の方だ。