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絢の一件の間、元はバイトを休んでいた。
オーナーの佐原は絢とも面識があったため、とても気に掛けてくれていた。
一度お見舞いにまで来てくれた程だ。
しかしいつまでもバイトに穴を空けるわけにも行かず、絢も無事退院した為に佐原に一報を入れて復帰した。
三軒茶屋の飲み屋街で地元に根付いて人気を誇る、立ち飲み限定のバーだ。
元は久しぶりのバイトということもあって気を引き締めてドアを引いた。
「....おおっ、元じゃねーか!」
「うす。ご無沙汰してます」
「たかだか一週間ちょいで大袈裟だなお前は.....」
「うす。今日からまた、お願いします」
掃除の傍ら絢の件の事後報告をする。
アロハシャツに鼻ピアス、おまけに刺青だらけの傍目には近寄りがたい男は、うっすら涙を浮かべながら絢の回復を喜んでくれた。
元が突っ掛かって返り討ちに合って以来、佐原は三茶周辺で元を見付ける度にちょっかいを出してきた。
無視するか喧嘩腰かの元だったが、佐原は見た目や腕っ節からは想像も付かないほど温厚で人情味のある人間だった。
元が高校進学の折に、家の事情を聞いていた佐原は警官である嫁を説得して、元を自身のバーに引き入れた。