第三話-1
一睡もできずに朝を迎えた。
女の子と同じ布団で寝るのは初めてでこそなかったが、どうしてかものすごーく緊張したのだった。
しかし一睡もできなかったからといって、今日が休みになるわけではなく。
普通に平日で普通に登校日である。
「おはよう」
母さんが俺に朝の挨拶をしてくる。
「おはようございます。魁さん」
先に起きていた優紀が朝の挨拶をしてくる。
「グッモーニン!カイ!」
金髪の女の子が朝の挨拶をしてくる。
「みんなおはよう」
俺は母親だろうと金髪の女の子だろうと、挨拶はきちんとするようにしている。
「で。君は誰かな?」
当然のように母さんたちと談笑していた金髪の女の子に問う。
「イギリスカラノ、リューガクセー」
留学生?
うちに留学生が来るなんて初耳なんですけど。
「名前は、ナマエハ」
「なんで言い直した!?普通に日本語話せるんだろ!?」
「ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセン。マジで」
「いやいやわかってるだろ!?何それキャラ付け!?」
「キャラ付けなんて、シテナイヨ。マジで」
最後に『マジで』とか言うな!マジで!
「マジで、ワタシニ、コイ、シナサイ」
どこかで聞いたようなゲームタイトルだな。
「ワタシ、アリス・カータ「言わせねぇよ!?」
怪しい金髪少女の言葉を遮る。
モザイクがかかるところだった。
いや、モザイクじゃなくてピー音か。
「母さん。この人は?」
埒があかないので母さんに訊く。
最初からこうすべきだったのだ。
「彼女は飛沫観音(しぶき・みおん)。昨日話したあんたの許嫁よ」
「日本人じゃねぇか!」
いや、それよりも。
許嫁。
親同士が決めた、婚約者。
「お久しゅうございます。魁さま」
「……誰?」
え、何この金髪少女。
さっきまでと全然しゃべり方も雰囲気も違うんですけど。
「ただいまご紹介いただきました。血飛沫観音です」
「こえーよ!」
血飛沫って。
観音(かんのん)様なのに血飛沫って。
「その髪」
金色に光る綺麗な髪を見やる。
「染めてるようには見えないけど」
「ゲジゲジ、あ、違います。地毛です」
地毛とゲジゲジを間違えるなよ。
頭に金色のゲジゲジでも飼ってるんですか。