『graduation〜白い花〜』-7
久しぶりに、雪見をきちんと見た。
その凛としたたずまいに目を奪われる。
これ以上見ていられない。
「なんだよ。」
俺は、できるだけそっけなく言って、目を逸らそうとした。
瞬間、両手で顔を捕まれた。
ぐきっと首がなった気がすると、階段につまらなそうに頬杖をついて、こっちを真っ直ぐ見詰める亜紀の方へ顔を向けさせられていた。
「あんた少しは『彼女』大切にしなさいよね。」
大きな声で言われて、ハッとする。
亜紀を彼女だと公表していない俺の狡さに、雪見は釘を刺したのだ。
雪見の手がぱっとはなされた。
一瞬、目が合った。
‘もうこれでお終い’
そう言われた気がした。
雪見は思い切りよく俺に背を向けると、歩きだした。
呆然とした俺と、あゆみと、サークルの奴等を残して。
居たたまれなくなり、俺は階段のところにいる、亜紀のところへ行った。
「なにかあった?さっきの、白い着物の人と。」
一部始終を見ていた亜紀は鋭かった。
「ちゃんと、話してきたら?」
優しく、亜紀は微笑んだ。
「・・・」
「大丈夫。ここで待ってる。すぐに帰ってきてくれるでしょ?」
俺は走った。
大学に入ってから初めて本気で。
伝統あるレンガ造りの校舎。
講堂を曲がったところで、小さく、雪見の姿が見えた。
雪見は、ポイっと、持っていた花束を、惜しげもなくゴミ箱に放り込んだ。
俺の足が止まった。
雪見は俺に気付かず、真っ直ぐ歩いていった。迷いのない足取り。
何故だか、気が抜けた。
俺は声をかけるタイミングを逸し、ただ、彼女の姿が完全に見えなくなるのを見送った。
・・・それからゆっくりと、彼女が花束を棄てたゴミ箱まで歩いた。
「あのアホ。『燃えないゴミ』に入れやがって」
俺は、雪見が棄てた白い花束をゴミ箱から拾った。
まだ綺麗な一つだけとって、あとは『燃えるゴミ』に棄て直した。
「さよなら」
そしていつかまた、あなたの目をきちんと見られるようなくらい、大人になった時に。
俺は、その白い花を、卒業記念で配られた六法全書に押し花にすると、亜紀の待つ階段へと歩き始めた。
(終)