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『graduation』
【青春 恋愛小説】

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『graduation〜白い花〜』-6

見ているのが辛い。

雪見に片思いしている時とは明らかに違う気持ちでそう思った。

俺は雪見に充てていた時間を、亜紀と後輩を可愛がり育てる時間に全て換えた。

後輩は俺を慕ってくれ、亜紀はいつも真っ直ぐに俺を見詰め、俺はこんな大学生活もあったんだ、と温かい気持ちになった。

時々、亜紀の強い眼差しの中に、雪見を感じることがあって、辛くなったが、雪見のことは少しずつ、自分の中から消す努力をした。

亜紀の眼差しが、雪見に似ているんじゃない。雪見の眼差しがたまたま亜紀に似ていたんだ、と。

バレンタインにチョコが送られて来た時も、完全に無視した。

雪見からのチョコはチロルチョコがビックリ箱に入っていて、明らかに俺のリアクションを待ち、かつ、俺の彼女を意識してか「義理」を強調したようなもので、その気遣いが痛々しかった。

そんな風に、雪見を無視し、亜紀とサークルの後輩を可愛がっているうちに、雪見は俺の中で小さく、小さくなっていった。

しかし、俺は気付いていた。

どんなに小さくなっても、この刺は一生抜けない刺なのだと。

それでも、俺は幸せに生きていける。

俺は自分に言い聞かせて、残りの大学生活を楽しんだ。
そして卒業式。

学位授与が終わり、成績優秀者の発表が終って、あとは、サークルとゼミの打ち上げだけだ。
外に出た。

「ツヅキ〜こっちこいよ。」

親友の佐伯に呼ばれると、サークルの後輩が用意してくれる恒例の花束渡しが始まっていた。

「先輩・・・卒業しちゃうなんて・・・」

俺に花束を渡してくれたのは、一女のあゆみだった。

涙を流して白を基調とした花束が渡される。

そう。
俺は、後輩に涙を流して送られる先輩になったのだ。

雪見とずっと一緒にいたら、こんな風には送ってもらえなかった。

俺が満足に思い、微笑んでいるところに、カツカツカツとブーツの音が聞こえた。

白い着物に、深い臙脂の袴をはいたそれが、俺とあゆみの間に割り込んできた。

サッと、俺の持っていた白い花束が取り上げられ、ボンと代りに、ピンクの花束が手に落ちてきた。

雪見だった。

「どうせ両方とも財源、同じサークルから出てんだから、とりかえてよね。私、ピンクより白の方が好みだな。あ。あゆみ、どいて、邪魔。」

雪見は、あゆみに背を向け、俺に真っ直ぐ向き合って来た。


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