『graduation〜白い花〜』-5
次の日。
メールで俺は雪見に呼び出された。
『話があるから部室に来て。』
勝負だと思った。
階段を駆け上がって、部室に入った。
雪見が目に入った途端、言おうとした
「俺、」
「私、都築が好き。」
負けた。
けれども言わなければならなかった。
「俺、先月、彼女ができたんだ。」
沈黙が流れた。
「そう。」
彼女は、椅子に座り直すと、考えるように目の前を真っ直ぐ見た。
その眼差しは驚くほど亜紀に似ていた。
「それまで3年近く、あなたが好きだったけど。」
言わなくていいのにそんなことを言ってしまった。
「そっか。」
雪見は一つ溜息をつくと、手を頭の前で組み、下を向いた。
雪見は3回大きく深呼吸をした後で、徐に口を開いた。
「じゃ、諦める。別に、私、都築と付き合いたいって訳ではないから。」
その言葉に、何かが大きくガラガラと音を立てて崩れていくのを感じた。
俺の選択は間違っていなかった。
それから他愛もない雑談をいくつかして、俺達は2人で部室を後にした。
「都築が幸せになれるよう、私は祈ってるよ。」
階段を下りるとき、雪見が小さく言った。
「俺も。自分の幸せを祈るように、雪見の幸せを祈ってるよ。」
自分が1番大切で、自分が1番大好きな『俺達』の、最後の思いやりの言葉だった。
その次の日から、何事もなかったように雪見は俺の事を飲みにも食事にも誘ってきた。
「勘弁してくれよ。」
俺には無理だった。
もう彼女の側にはいられない。
解放されたかった。
そして、雪見の長い髪がバッサリ、ショートになっているのを見てしまった時、どうしようもない感情が込み上げてきた。
ホントもう無理。
雪見をすごく大切に思う気持ちは、憎しみにとても似た気持ちだということに気付いた。
サークルですれ違っても、目を合わせることさえできなかった。