『graduation〜白い花〜』-4
「そ、そうよ。絶対落ちない男を落とすのが私の趣味ですもん。都築は絶対落ちないって分かっているから、口説きがいがあるわ。」
体制を立て直すように言った言葉に、応えてしまったのは本能だった。
「とっくに落ちてるのに、落ちてないフリするの大変なんだから。」
気が動転した。
自分の口がそんなことを言うなんて思いもしなかった。
雪見は何も言わなかった。
その日、雪見は散々酔っ払って、俺に最寄の駅まで送らせた。
電車の中、目をつぶって俺に寄りかかりスースーと寝息を立てた。
時々、ふと起きては
「目を開けた時に、都築が目の前にいるって幸せ。」
なぞと呟いた。
俺は、どうしていいのか分からず、ただ口の端を上げてみせた。
家に帰ると、後悔の渦が俺を攻め立てた。
「何やってんだよ、俺!」
せっかく手に入れた幸せを俺はまた捨てようというのか。
分かっていた。
雪見を本当の意味で手に入れることなんてできないのだ。
例え、今、雪見を手に入れても、絶対に別れは来る。
雪見は俺と似すぎている。
無理だ。
そんな時、電話が鳴った。
着信が子犬のワルツではないことを確認して、ボタンを押す。
「都築先輩?もう帰ってきてた?」
フラフラとしながら、頷いた。
「あぁ。亜紀、まだ寝てなかったのか。」
「そりゃそうです。女の人と飲みに行くっていうのに心配しない彼女がいますか?」
そう言われて、俺はきちんと亜紀に、同じ学年のサークルの女の子の就職祝いに飲みに行くんだ、と告げて、雪見と飲みに行ったことを思いだした。
ちゃんとしてんじゃん、自分。
俺はもうこの子を選んでたんだ。
迷ってはいけない。
明日、ちゃんと雪見に言おう。
「亜紀が好きだよ。」
俺は、心を込めてそう言った。
「あたりまえです。」
亜紀の言葉に温かく苦笑してから、俺は眠りについた。