『graduation〜白い花〜』-3
亜紀は一つ年下で、ゼミの後輩だった。
ちょっとエキセントリックな感じがするが、綺麗な子だな、とは思っていた。
「都築先輩が好き」
彼女は真っ直ぐな目でそう言った。
それまで俺は2度ほど同じ歳の女の子に告白されていた。
けれどもそれは、
「都築君が好き。けれども、付き合いたいとか、そういうのじゃないから。」
という自己完結なやつだった。
亜紀は違った。
「先輩を独占したいんです。付き合ってください。」
直球勝負の彼女に、俺は安らぎを見出した。
もうこれで終れる。救われる。
「いいよ。でも色々言われるの面倒だから、しばらく皆には内緒にしておこう。」
俺はずるく、その言葉を吐いた。
それから数日後、4年になる前に、俺はさっさと就職を決めた。
雪見は就活に疲れて、俺に頻繁に電話するようになっていた。
俺は、もう平気だった。
余裕をもって彼女に接せられるようになっていた。
亜紀がくれる温もりや、真っ直ぐに向かってくる気持ちや、安らぎは、俺に安定した気持ちを与え、俺は誰にでも優しくなれるような気がしていた。
調子に乗っていたのかもしれない。
だから
「就職決まったよ。今から飲みに行こう。今すぐ、都築と飲みたい。」
そんな雪見の言葉に、亜紀への罪悪感を感じながらも、頷いていた。
会うといつもの軽口が始まった。
「愛してるよ」
いつもの台詞を雪見は躊躇いもなく口にする。
「あなたが『愛してる』って言うのは『殺すぞ、おら』って俺の中では変換されます」
もう傷つかない。
そんな言葉には。
「ってかさぁ、俺、自分がそういうとこあるから分かるんだけど、雪見のそういう軽口って、半分、いつも本気だよね。」
なにげなく、そんな反撃までもできるようになっていた。
しかし、
「!」
隣を見ると、雪見が微妙な顔になっていた。
いつもと違う、その雰囲気。