朱炎の記憶-1
「あー、ヤリてえなぁ。サダオ、お前って彼女いないの?」
「ああ、いないよ」
「なんだよ、じゃあお前もまだなんだな。チクショウ、彼女ってどうやって作るんだ?」
「俺に訊かれても……それに、そんな下心丸出しじゃあ、誰も近寄らないさ」
「ちぇ、ちょっとイケメンだからって爽やかぶりやがって、童貞のくせに」
夏休み前の、悪友とのくだらない会話。
俺はその悪友に、苦笑して返す。だが、俺は爽やかでも、そして童貞でもなかった。
それは、ここではない別の地の、やはりこんなに暑い日の出来事の話だ。
***
そのケータイの画像を見ても、女は特に動揺してはいなかった。
画像と俺の顔を交互に見やって、薄っすらと微笑みすら浮かべている。
「ふぅん、あそこから、見えてたんだ」
「だから、お、俺の、言うことを、聞いてくれたら――」
「ちょっと、落ち着きなさいよ。サダオくん、だっけ? 中学生? 可愛いわね」
今やコンビニなど無限に生えるタケノコのように全国どこにでもあるが、ここは最寄りのコンビニまで車で二十分はかかる。それも、夜には閉まる有様だ。
そんな田舎は、どこもかしこも建屋が古く、プライバシーが甘い。
隣の二階の部屋から、自室が丸見えになっていても、誰も気にしたりはしない。
そういう調子だから、自慰に耽ける彼女の部屋も丸見えだ。
彼女はハルミと言った。俺が彼女と言うには、歳の差があり過ぎる。
俺は十五で、ハルミはおそらく三十は超えていただろう。
美人であるかは微妙だったが、ハルミに近づくだけでむせ返るような色気を感じた。
胸も腰も足も、同級生の女子とはまるで迫力が違う。
薄手のTシャツは胸の膨らみをこれ見よがしに主張し、大きな尻をショートパンツがようやく覆っている。
そんな大人の女の肉を前にして、俺はたじろいだ。
「とにかくさ、上がんなさいよ。何か冷たいものでも出してあげるわ」
ガラガラと立て付けの悪い引き戸の奥に、豊かな尻を揺らしてハルミは消えた。
俺も、その尻の後を追いかける。話は、まだ終わっていないのだ。