朱炎の記憶-3
「じゃあ、パンツは脱がなくていいわ。それなら出来るでしょう?」
主導権を握るはずが、それを握っているのはハルミになってしまっている。
……Tシャツとジーンズを脱ぐだけで、彼女の裸が見られるのだ。
思い切って立ち上がり、服を脱ごうとする。ハルミはニヤニヤしながら見つめている。
上からハルミを見下ろすと、胸から大きな谷間が覗いていた。そして、厚ぼったい唇。
Tシャツを脱いだ途端に、勃起した。
それでジーンズを脱ぐのに躊躇していると、ハルミが催促してくる。
「どうしたの? 男なのに恥ずかしいのかしら? それなら、あたしが脱がしてあげる」
ハルミはさも自然に俺のジーンズのボタンを外すと、ホックを指でつまんで下ろした。
その指が、妙に艶かしく見えて興奮する。
「やっぱり、若い子は肌がきれいねえ。フフ、あたしもまだそこまで年じゃあないけど」
ゾクリとする感触は、ハルミが俺の上半身を軽く手で触れているからだ。
俺の体つきを確認すると、彼女はズルリと両手でジーンズを下げた。
こんもりと張っているトランクスを見て、ハルミが少し顔色を変えた。
「あっ――もう、こんなおばさん相手に、こんなになるかねぇ」
ハルミはおばさんを強調しているが、俺と歳の差があるだけで、世間的には色気のあるお姉さんという風に見えるだろう。
勃起しているものを下着の上からでも見られるのは恥ずかしくもあったが、ハルミの刺すような視線に晒されて、ドキドキもした。
何よりも、これでハルミは裸になるはずだから。
「ねぇ、俺もう、脱いだだろ? 今度はハルミさんの番だ」
「焦っちゃ、駄目よ。だいたい、あたしを脱がせてどうする気? 見るだけなの?」
「それは」
「――セックス、したいの? 子供のクセにさ」
俺は大人の女から生々しい言葉を聞いて、たちまち頭に血が上ってしまう。
ただ立ち尽くすしか無い俺の勃起に、ハルミの手が伸びた。
ハルミの少し険のある顔つきが緩んで、柔らかな優しい顔つきになっている。
トランクスの上から彼女の手が触れた瞬間、俺の興奮は頂点に達してしまい――
「あっ……! うっ……くっ……!」
ビクリビクリと硬直が波打ち、快感が放出される。俺は、射精してしまったのだ。
「……? 何? もしかして……出しちゃったの?」
その後のハルミは、とても優しかった。
俺は情けないこと極まりなかったが、彼女は俺にシャワーを浴びるように促し、代えの下着も用意してくれた。
何故一人暮らしのハルミが男物の下着を持っているのか疑問だったが、取り敢えず借りることにした。
借りれば、また返しに行くことが出来ると考えたからだ。
俺の下着の方は、ハルミが洗うからと言って持って行ってしまっている。
「フフ、あたしなんかにそこまでコーフンしてくれて、ちょっと嬉しかったわ」
「あの、すいません、脅そうとしたりして。ケータイの画像は――」
「もぉ、出したからってすっかりしおらしくなって」
俺は完全にハルミに毒気を抜かれて、彼女を脅すことに今更ながら罪悪感を覚えていたのだが、そんな俺の言葉を遮るようにハルミは言う。
「また遊びに来なさいよ。どうせ隣だしさ、ね?」
ハルミは俺の罪悪感を癒すかのように、笑顔でそう言ってくれた。
だが、俺はこの笑顔のほんとうの意味を、もう少し後に気づくことになる。