サヨナラの果て-4
最後に見た彼の背中を思い出すと、胸が締め付けられて苦しくなる。
あたしが胸を痛めること、これが優真先輩の仕返しだ。
彼は、こんなのは仕返しのうちに入らないなんて言っていたけど、そんなことは決してない。
優真先輩を傷つけた痛みは、あたしに跳ね返ってこんなにも辛くさせたのだから。
「お、噂をすれば愛しのダーリンのご登場ですよ」
涙を必死で堪えているあたしに全く気付かない吉川くんは、ヒュウッと口笛を吹いてからあたしの二の腕を肘でツンツン小突いた。
吉川くんの視線につられつつ、ドアの方に目を向ければ、友達と一緒に教室に入ってきた優真先輩の姿があった。
「うん、やっぱりお似合いだよ、お二人さん。ヨリが戻ってよかったなあ、寺島先輩」
ブツブツ言いながら腕組みをして、一人でウンウン頷く吉川くんは、まるで自分のことのように嬉しそうだ。
そんな彼に、変な汗が背中をじわりと濡らす。
勘違いされたまま、優真先輩に話しかけたりなんかされちゃ大変だ。
ちゃんと本当のこと、言わなきゃ。
「吉川くん、あのね……」
そう口を開きかけたあたしは、自分の身体の異変に気付いて彼の肩を叩こうとしたまま固まってしまった。
優真先輩と目が合ったから、と気付いたのはそれから数秒してから。
セルフレームの眼鏡の奥の、切れ長の目が一瞬大きく見開かれた。
一方あたしはハッと息を呑む。
視線が絡まったまま、あたし達は時が止まったみたいに動かなかった。
「ゆ、優真せんぱ……」
やがて半開きの唇を震わせながらあたしは無意識のうちに彼の名前を呼び掛けていた。
隣の吉川くんですら聞き取れないほどの小さな声。
でも、優真先輩には届いていたのだろうか。彼はその刹那、微笑んだように目を少しだけ細めた。
一歩、一歩と近付いてくる彼の足音。
スニーカーのゴム底がキュッとリノリウムの床を鳴らす音が響く。
――そして。
優真先輩は、そのままあたしが見えていないかのように目を伏せてから、一緒に教室に入ってきた友達の方を向いて、あたしの目の前をスッと通り過ぎていった。