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『女神様伝説』
【SM 官能小説】

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第5章-1

      第5章

 1982年から1983年にかけての年末年始は、私はこの上もなく楽しい予感に心がわくわくと踊り、気分がうきうきと弾けていた。
 SMショーパブでM役として出演するようになった。そして全国SMグランプリにも出場できた。それが嬉しかったのである。
これからSMの道を邁進し、いずれはプロのSM嬢になろう。またSMビデオにも進出して、SM女優としても活躍しよう。そして最終的には性欲処理専用肉便器奴隷になる。私の前途はバラ色に思えた。
 そんな中、1月4日、テレビで映画『セーラー服と機関銃』を見た。そこで歌われていた『カスバの女』という歌に私は引かれた。ああいう惨めな女に憧れていたのである。そして私もそういう女になりたかった。
 1月8日にはサスペンスドラマ『殺人行おくのほそ道』を見た。松本清張の同名小説をドラマ化したものだが、原作とは違ってラストシーンは北陸の親不知海岸だった。私はふと自分の部屋の本棚の上に紙に包んで安置してある聖書を思い出した。半年以上もベランダで雨晒しにしていた聖書だ。
 そうだ、あの聖書は親不知の海に流そう。
 私はそう思いついた。ただ単に親不知海岸が美しかったからだけではない。キリスト教徒にとって神は親である。その神の書である聖書を故意に雨晒しにするのは、まさに親をも知らぬ愚かな行為。その反省の意を込めて葬るに、親不知海岸ほどふさわしい場所は他にあろうか。私はそう考えたのである。
 1月15日、土曜日、年が明けて初めてティックリラのSMショーに出演した。ショーの後、楽屋でリサが私に告げた。
「谷本さんの発案で、来週の22日の土曜日に、彩香の処女喪失ナイトという企画をやることになったよ」
「私の処女喪失? 誰とやるんですか?」
「この子と」
 リサがジャンと取り出したのは一本の大きなニンジンだった。
「えっ?」
 私は一瞬意味がわからなかった。しかしすぐにわかった。ニンジンを私のオマンコに挿入して処女膜を破ろうというのだ。
「ニンジンに処女を奪われた女なんて、ちょっとイカすだろ」
 全然イカしませんよ!
 私は心の中で泣き叫んだ。ニンジンに処女を奪われるなんて、それも公開の場で。あまりにも惨めすぎる、情けなすぎる。
 しかし私は、そういう惨めなこと、情けないことを強制されているということ、逃げたくても逃げられないという、その状況設定に性的に興奮するのだった。それにニンジンはリサが入れてくれるのだから、リサに犯されて処女を奪われると思えなくもない。
「それまでしっかり処女を守っておきなよ」
「はい、わかりました」
 リサの命令には逆らえない。
泣きたいほどの惨めさと、そのさらに奥底には弾けるようなマゾヒスティックな喜びを噛みしめて、私は厚木の自宅に帰った。
そしてテレビをつけると、ちょうどサスペンスドラマのラストシーンをやっていた。北海道の原野のような風景。そこに立つ男と女。男が女に話しかける。
「これからどうするの?」
「東京へ帰る」
「東京へ帰ってどうするの?」
「・・・・」
 女は答えずに寂しそうに首を振った。おそらく事件は解決したものの女は生活を失ったのだろう。妙に印象に残る会話だった。が、この会話が後に生きてくるとは私は想像もしなかった。
 翌日曜日、教会に行くと、入江司祭が、
「吉田さん、洗礼を受けてみないかね」
 と勧めた。
「はい、受けます」
 私は即答した。
「それじゃ、4月3日のイースターの日に洗礼を授けることにしよう。そして7月24日に主教様が山手聖公会にいらっしゃるので、その時に堅信を受ければいいだろう」
 通常は洗礼を受ける際には、一年間ほど聖書の勉強をしなければいけないらしい。しかし私は中学も高校もキリスト教系の学校で、すでにある程度の基礎知識は持っているだろうということで、こういうスピード日程になった次第である。
「洗礼名は何とするかな」
「クララというのはどうですか」
 アッシジの聖クララから取ったのだが、ティックリラにクララという女王様がいることにも因んでいた。
「クララか。うん、クララねえ。それ、いい名前だ。それにしよう」
 ということで、これもあっさりと決まった。しかし、
「将来的には、よきクリスチャンホームを築いてくださいね」
 この入江司祭の最後の言葉が、私には非常な違和感を持って聞こえた。私が結婚して家庭を持つ。レズビアンでマゾヒストの私にはそんなことは想像にすらできなかった。私はプロのSM嬢になるのだ。入江司祭が言うような家庭主義はまったく場違いであった。


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