光の風-5
「…悪いが、そんな気分ではない。」
カルサのいつもと違う声にリュナは心配になり、手を止めて傍に寄った。
「どうかされましたか?」
心配そうな顔でのぞく、カルサは俯せていた顔をあげ、仰向けに横になった。
「二人の時は敬語はやめろと言っただろう。」
吐き捨てるように言った言葉はまるですねた子供のようだった。
「…すまない、お前が悪い訳じゃない。」
顔を手で隠し、苛立ちを押さえるように謝罪した。悪いのは自分の虫の居所だった。いつもと明らかに違うカルサを見てリュナは黙っていた。初めて見る姿、よほどの事が今の会議ではあったのだろう。リュナはベッドに腰掛け、カルサの頭に触れた。カルサは抵抗せず、触れられる手に身を任せていた。
「綺麗な髪ね、少し伸びたみたい。」
リュナの声と手の感触が心地よかった。覆っていた手をのけると、優しい笑顔でこっちを見るリュナがいた。カルサはリュナの足の上に頭をのせ、膝枕状態になるように体を動かした。リュナは抵抗することなく受け入れ、優しく頭を撫でる。心地よい時間、いまにも眠れそうな安心感があった。
目を上げると、リュナの笑顔がある。カルサはずっとその顔を見ていた。思わぬ熱視線にリュナは不思議そうにカルサを見た。
「…カルサ?」
問いに答える訳もなく、カルサは起き上がりリュナを見つめた。いつもと違う表情。カルサは右手をリュナの頬に伸ばし、優しくキスをした。
鼓動が高鳴る。短いキスのあとお互い見つめあった。リュナの頬に赤みがかかる。カルサの目はリュナを捕らえて離さない、右手は腰に周り左手は頭を押さえ、もう一度唇を奪った。今度は激しく、熱を帯びている。
「…んっ…んっ」
時折リュナの声が漏れるたびに熱は増していった。カルサの腕を掴んでいた手に力は入らなくなり、体はベッドに崩れていった。ようやく唇を解放された時には、力なく、潤んだ瞳で息を弾ませながらカルサを見ていた。カルサも息を弾ませながらリュナを見る。ようやく我に返ったカルサは、目を逸らし謝った。
「…ごめん。」
リュナの上から体をどかし、紅茶の方へ向かう。まだ湯気が残る紅茶を飲み干し、静かにティーカップを置いた。
「ごちそうさん。」
カルサはリュナを見る事無く上着を手にとって部屋から出ていった。真っ赤な顔をしたリュナだけが部屋に取り残される。顔が熱い。両手で顔を覆い、今起きたことを頭のなかで分析していた。
オレは何をやってるんだ。
カルサはバルコニーから中庭を眺めながら反省していた。いくら向こうが警戒心ゼロとはいえ、やっていいことと悪いことがある。でも止まらなかった、あそこで理性を取り戻したことでさえ自分を褒めてやりたいくらいだった。