兎の決意-1
「あっ」
土曜日。学校は休みである。
俺がやぁと軽く手を上げると、ドアから顔を覗かせたツキコは俺の顔を見て硬直した。
眼鏡をかけて、何故か中学の頃の紺のジャージを着ている彼女の姿を目にすると、数年前にタイムスリップしたような心地がする。
今はコンタクトをしているツキコだが、当時は銀縁の眼鏡をかけていて、ややお堅い印象があった。
そして当時の俺とツキコは、小学校の頃に親しくしていたことが嘘のように、お互いに何の干渉もせずに過ごした。
俺はそれが思春期特有のことなのだろうと解釈していたが、実はそうでなかったと言うのだ。
俺とツキコのささやかな行き違いをつい先日乗り越えて、俺は今ここにいる。
「久しぶりに来たから、ちょっと道に迷ったよ。体の具合は――」
俺がそこまで言うと、ばたんとドアが閉まった。
「あ、おい。ちょっと、何で閉めちゃうんだよ。プリント届けに来たのにさ」
「もう、何で、急に来るのよ!」
「だって、ケータイに電話しても出ないしさ、どうしようもないだろ?」
「ケ、ケータイ……!」
ドアの向こうのツキコは、ケータイという単語に反応を示し、そのまま押し黙った。
実は固定電話にかければよかったのだろうが、彼女の父親は警察の偉いさんとヨウコから聞いていたので、それは腰が引けたのである。
申し訳ないことに、彼女の父親を意識せざるを得ないような事をしてしまったからだ。
そして、それはもしかするとツキコが三日間学校を休んでいることと関係があるのかもしれない。
「あの、具合はいいのか? 会長も心配しててさ、一緒に見舞いに行こうかって言ってたんだぜ?」
「――サトウさんが? そう。体調は、悪く無いわ。少し、風邪を引いてしまっただけ」
「そうか。それを聞いて安心したよ。じゃあ俺は、帰るよ。プリント、ここに置いておくから」
俺がプリントを新聞受けに入れて立ち去ろうとすると、バタバタと少し慌てたような音がする。