兎の決意-3
そして、30分経過した。
たしか10分と言っていたはずなんだが、一体どうしてしまったのか。
20分経ったところで一度ドアをノックしたのだが、何の応答も無かった。
あまり人様の玄関でうろうろしていると、不審者に思われてしまうのではないか。
まして、ツキコの父親は警察官だというのに。よし、そろそろお暇しようか。
そう思った瞬間、ガチャリと開かずの扉が開いた。
「あの、お待たせ。上がってくれるかしら?」
「いや、いいんだよ、俺はもう帰るからさ。気を遣わせるのも悪いし」
「もう、いいから早く上がんなさい!」
家に上がることにどこか後ろめたさがある俺を見透かしたように、ツキコが一喝する。
普段冷静な彼女が眉を釣り上げるようなシーンはなかなか見れないものだ。
ねぇ、早く。聞き用によっては扇情的な台詞をツキコがさらに口にする。
ツキコはどういう訳かジャージから着替えてしまっていた。
清潔感のある、白のワンピース姿だ。彼女の長い髪がその白い色には美しく映える。
髪といえば、ほんの少し湿り気があるような……?
風が吹いて、爽やかな甘い香りがドアの向こうから漂ってきた。
シャンプーか何かの香りだろうか。
長く待たされたのは、もしやシャワーを浴びていたから……?
俺は、その香りに誘われるように、のろのろとドアの向こう側へと入っていった。
二階のツキコの部屋に居る。
お邪魔します、と言って入ったものの、人の気配はツキコ以外にはしなかった。
ツキコの部屋には入ったことがある。
フローリングの床に、ベッドと机とテーブルが置いてあり、テーブルの脇に座布団が敷いてある。
かつては、ぬいぐるみやらおもちゃなども置いてあったが、今はほとんど消えていた。
しばらく待っていると、ツキコがホットコーヒーとショートケーキを盆に載せて持ってきた。