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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み6 〜桜、舞う〜-13

「たった今モデルになる事を承諾しといて、まさかイヤだなんて言い出すつもりじゃないわよね?」
「だ、だってモデルだなんて……うきゃあっ!?」
 楓にいきなりバストを鷲掴まれ、美弥は悲鳴を上げた。
「この乳!」
 次いで、ウエスト。
「この腰!」
 さらに、ヒップ。
「このお尻!!」
 楓は叫ぶ。
「こンの絶妙なサイズバランスを放っておいていい話なんて、ないわ!!大っ丈っ夫、私を信じて!サイッコーのドレスを、仕立ててあげるから!!」
 迫力に圧され、美弥は再び頷いてしまった。
「うーしっ!それじゃさっそくだけど、サイズチェックしなきゃね!」
 どこからともなくメジャーを取り出した楓は、呆然としている美弥を立たせて制服を手早くひん剥く。
「下着は止めてーーーーっっ!!」
 楓の手がブラジャーにかかると、さすがに美弥は我に返って抗議した。
「え〜〜〜っ?」
 不満そうな顔をする楓だったが、美弥が恐い顔をしたので下着を剥ぐのは渋々と諦める。
 その代わり、美弥の体のあらゆるサイズを徹底的に計った。
 眉や睫毛の長さまで計られ、一体何を作る気だと美弥は突っ込みたくなる。
「ねぇ……そんなに体の線、出すの?」
 不審に思い、美弥は尋ねた。
 特定の部位を除いて龍之介に惜しみなく見せている体だが、恋人に見せるのと赤の他人に見せるのとでは訳が違う。
「装飾の問題よ」
 あっさりと、美弥には理解できない理屈で楓は答えた。
「ベトナムの民族衣装のアオザイ。あれなんか、確か三十ヶ所くらい採寸するわよ。そんで、かっこよく着こなすためにみんな綺麗な体のラインを維持するの」
「いやあの……私にアオザイ着せる気じゃないんでしょ?」
 あたふたする美弥に対し、楓は上の空で答えた。
「ええもちろん。胸あるから見映えするし、ドレスなんかいいかしらねぇ……」
 ぶつぶつと呟きながら、楓は採寸を終わらせる。
「とりあえず、他の人待ちだわね。かぶらないように、調整しなきゃなんないから」
 
 
 数時間後。
 二人は、龍之介の部屋にいた。
 竜臣も竜彦もまだ仕事から帰ってこないし、巴は『美弥ちゃんが遊びに来たぁ〜!!今夜はご馳走よっ!!』と張り切って食材の買い出しに出掛けたため、いちおう家には二人だけである。
「……は。モデル、ね」
 美弥の言葉を反芻した龍之介は、面白くなさそうに眉を震わせた。
 そして、手の中で弄んでいたティーカップをくいっと傾ける。
 カップの中身は『女の子は栄養摂らなきゃ!』という巴の主張により、ローズヒップティーだった。
 ローズヒップ。薔薇の実の事を指し、異名は『ビタミンCの爆弾』である。
「……反対?」
 一縷の望みをかけ、美弥は尋ねた。
 もしも龍之介が反対してくれるのなら、『彼が嫌がってるから』とモデルを断る理由ができる。
 付き合い始めてからはいたってナチュラルなくせに自然と目立つ龍之介の隣にいる時間が増えたので、注目を浴びる機会が激増したのだが……美弥当人はあまり目立たない方がいいなと、考えているのだ。
「いや……賛成」
 龍之介の意見に、美弥は目を剥く。
「見せびらかすのにいい機会だと思う」
 きっぱり言われた美弥は龍之介の意図を謀りかね、眉間に皺を寄せた。
 そんな美弥を、龍之介は悩ましげな目付きで見る。
「んっ……」
 次の瞬間、唇にキスが訪れていた。
 二度三度と、キスが繰り返される。


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