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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み6 〜桜、舞う〜-12

 美弥がこんな悩みを抱えていたとは夢にも思わない龍之介だが、ご当人は回数をこなす事より愛情を交わす事を重要視しているので、一晩にイタす回数が少ない事をあまり不満には思っていなかったりする。
 つまり……回数より内容が、龍之介のスタンスなのだ。
 もちろん、美弥が回数をねだればそれに応えられる精力があるから、一晩中だってお相手を務める事ができる。
 だが、そこまでの体力が美弥にない。
 そして……過日のような交わりは、通常ではこなせないのだ。
「……ふつー、一晩に一回スりゃ十分でしょ」
 呆れた口調で言う瀬里奈に対し、美弥は肩をすくめる。
「そうかなぁ……」
 そんな美弥を見て、瀬里奈は思った。
 男性遍歴の豊富な自分からすると、美弥は龍之介しかろくに経験していない。
 つまり、龍之介のやり方が美弥にとってのスタンダードなのである。
 いかにも体力と精力を兼ね備えていそうなあの体から繰り出される情交を受け止めていれば……自分の予想通りかそれ以上に激しい交わりを繰り広げているのなら、美弥がそう考え始めるのも無理はない。
「そうよ。それか、足りないって思うなら当人に聞いてみれば?」
 瀬里奈の言葉に、美弥は目をぱちくりさせた。
 その辺の調整の仕方は当事者同士の問題にしても、パートナーの考えも知らずにあれこれ思い悩む事くらい、間抜けな事はない。
 特にこういうデリケートな事は、慎重を期して当然という物である。
「そっか。確かめなきゃ、どうしようもないわよね……」
 考え深げに呟く美弥を見て、瀬里奈は羨ましく思った。
 付き合い始めて一年半は経っているのに、このラブラブぶりである。
 脳内麻薬によって、愛情は一年で冷める……激しい愛情は穏やかな愛着に移行すると何かの本で見掛けた事のある瀬里奈だったが、どう見てもこの二人はその例外だ。
 自分と紘平は、はてどうなるのだろう。
 そう考えると、瀬里奈は羨ましくて仕方ないのだ。
 
 
 数日後。
 放課後になって、龍之介が美弥を家まで送ろうと学校の廊下を仲良く歩いていた時の事だ。
「あ、美弥!」
 背後からかけられた声に、美弥は振り返る。
「ようやく見付かったぁ……!」
 息を切らしつつ駆けてきたのは、手芸部部長だった女の子。
 名を宇月楓(うづき・かえで)といい、制服姿に違和感がないので顔は割と可愛いと分かるのだが、レンズの分厚い眼鏡とソバカスがいまいち垢抜けない印象を醸し出していた。
「話があるの!来て!」
「ふぎゃああぁあああ〜〜!!?」
 悲鳴を上げている美弥を有無を言わさず引っ張っていく楓を見て、龍之介は文句も言わずに手を振る。
 楓は龍之介の方を振り返り、ニヤリと笑った。
 龍之介はグッ!と親指を立てて、それに応える。
 ――美弥の知らない所で、何かが進行中だった。
 
 
「と、ゆー訳で!」
 気迫の籠った声で、楓はぶち上げる。
「三年間の集大成!文化祭に向けた三年生の卒業製作のモデルに!めでたくあなたが選ばれたのよ!!」
 自分達以外に誰もいない家庭科室の椅子へ座らされた美弥は、楓の気迫が理解できずに目をぱちくりさせていた。
「他にもあなたのお友達の笹沢さんと芝浦さん、あの二人も選ばれてるわ!生徒モデルを使って文化祭卒業製作ファッションショーをやる企画、協力してくれるわよね!?」
 ずずいっ!と顔を近付けられた美弥は、迫力に負けて思わず首を縦に振る。
「ありがとうっ!!」
 満面の笑みを浮かべた楓を見て、美弥はようやくとんでもない事を了承してしまったのに気が付いた。
「モ、モデルぅっ!?」
 素っ頓狂な声を上げる美弥を見て、楓は目をすぅっと細める。


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