恋人達の悩み6 〜桜、舞う〜-11
「ふ〜ん……美弥がすけべなのか龍やんがテクニシャンなのか……」
「すけべ言うな」
紘平の言葉に、龍之介はすかさずツッこんだ。
紘平の影響が出ている。
「ほ。なら龍やんがテクニシャンって訳だな」
それを聞いた紘平は、にんまり笑った。
「テクニシャンでもないっ!!」
龍之介は思わず、声を荒げる。
「ただ……ちょっと人より器用なだけだ」
気まずそうにそう続けると、龍之介はそっぽを向いた。
習いさえすればたいていの事はこなせてしまう自身の器用さについて、事実なのだから龍之介に否定する気はない。
「ほっほう?器用なぁ?」
そんな龍之介を見て、紘平はにやにや笑う。
器用なだけであの美弥からSEXをおねだりされるなら楽なものだと、幼い頃を知る紘平は思った。
自分には多少なりともガードが緩かったと信じたいが、龍之介を相手に比べればその緩みは月とスッポンである。
美弥に未練はないが……万が一にも未練を抱いたら、龍之介からボコボコにされるので未練など抱きようがないが……紘平は、口をつぐんだ。
紘平は、意地悪い気分で龍之介を見る。
少しくらい悩めと、紘平は思っていた。
龍之介は自分が十二年もかけて美弥からゆっくりじっくり勝ち取った信頼を、一年足らずであっさり追い抜いて突き放すようなバケモノなのである。
「ふーん……」
勉強机の椅子に陣取った瀬里奈は面白そうに片眉を吊り上げ、美弥と輝里を交互に眺めた。
眉を寄せて困った顔をしている美弥は頬を赤らめてベッドの縁に腰掛け、抱き抱えたクッションに真っ赤な顔を隠している輝里は、一人掛けのソファに座っている。
「刺激が強かったみたいね?」
にやにや笑いながら、瀬里奈は言った。
「そりゃ、瀬里奈があんな事言うから……!」
美弥は輝里をかばい、思わず抗議する。
自分と美弥との男の下半身に関するあけすけで開けっ広げで刺激に満ち満ちた言葉の応酬は、初心な輝里にはかなりの衝撃だったようだ。
「なぁ〜によ?高由君、手ぇ出してくれない訳?」
瀬里奈の言葉に、輝里はぶんぶん首を振る。
……縦に。
ずるうっ、と瀬里奈がずっこけた。
「だ、だって……!」
真っ赤な顔のまま、輝里は弁解する。
「付き合って、もう半年以上も経つのに……まだあんまり、気持ち良くないし……秋葉も、加減が分からないみたいだし……」
その後輝里は口の中でふがふがと呟き、クッションへ完全に顔を埋めてしまった。
「加減が分からない、ねぇ……受けのテクニシャンになれば?」
初耳の言葉に、美弥は瀬里奈を見る。
「つ・ま・り……ヤッてる最中にただあ〜あ〜喘ぐんじゃなく、そこがいいとか何々してとか、気持ちいいので我を忘れたふりして高由君に伝えれば?」
輝里にとって、瀬里奈のこの考えは衝撃的だったらしい。
クッションから顔を上げると、ぶつぶつ呟きながらその案を検討し始めた。
「……ま、あんたはそういう不満はないんでしょ?」
話の水を向けられた美弥は、ひょいと頷く。
「うん。何々してなんて言う前に、色々してくれるから」
龍之介は、自分でさえ知らなかった性感帯を探し出しては開発し、色々と試して一番感じる愛撫を研究したらしい。
抱かれていると感じて感じてどうしようもなくなり、焦れて卑猥な言葉を吐きそうになった事が幾度もあった。
「あ〜……でもあるわ。不満」
瀬里奈が、ぴくりと眉を吊り上げる。
「龍之介を、満足させる事ができてないだろうなぁって」
美弥は頬を赤らめた。
「龍之介、精力あるのに私が体力ないから……あんまり回数がこなせないのよ」
痴態を曝した過日は別として、共に夜を過ごす時に回数をこなす事はあまりない。