四つ葉のクローバー-6
「……離してよ」
「やだ」
その軽い口調に思わず舌打ちが盛大に鳴る。そしてキッと睨みつけるために奴の方を振り向くと、あろうことかニヤッと不敵な笑みを浮かべていた。
なんなの、コイツ! こんな時でもヘラヘラ笑ってて……!
その表情に、さらに苛立ちは募る。
「離してっつってんのよ! 昼間も言ったはずでしょ、もう関わんないでって! そうじゃなきゃあたし、いつまで経っても陽介のこと忘れられな……」
「忘れんなよ」
あたしの言葉を遮ったその低い声に驚いて、あたしは彼の顔を見上げた。
すると、いつの間にか不敵な笑みは消えていて、やけに真剣な顔をした陽介の顔がそこにあった。
「陽…介」
「俺のこと、忘れないで」
薄暗い電灯の下、陽介の瞳はやけに潤んでいるように見えた。
そして次の瞬間、あたしの身体は陽介の腕の中にあった。
「ちょっ……、離してよ!」
「ダメ」
なんとか振りほどこうと身体をよじっても、その力には遠く及ばない。
それほど陽介はあたしを強く抱き締めていた。
「おちょくるのもいい加減にしてよ! あたしはあんたのオモチャじゃない……」
「好きだから離したくねえんだよ!」
さっきから反抗的なあたしの態度に苛立ったのか、陽介は逆ギレ気味にそう怒鳴った。
「え……?」
陽介は暴れるのをやめたあたしの身体をそっと離すと、気まずそうにまたあたしから目を逸らした。
「自分でも勝手だなってわかってるよ。俺から別れようなんて言ったくせに、お前がアイツとヤッたって知ったら頭に血が上ってしまってさ。せっかく身を引くつもりでいたのに、マジで俺、情けねー」
「え、身を引く……って……」
暗がりの中でもはっきりわかる陽介の赤い顔。
言おうか言うまいか、髪の毛をワシャワシャと掻きながら迷った素振りをみせていた陽介は、少しの間を置いてからあたしに向き直った。